2022.03.14
ライブハウスインタビュー

『コロナが終わった頃には強靭なチームになって仕事を向かえられるというのが自分の理想』三軒茶屋グレープフルーツムーン 河邊健吾さんインタビュー

====== MUSER ライブハウス インタビュー ======

スポットライトのあたるステージの裏側の世界。 ライブハウスを運営しているスタッフの方へのインタビューを通して、 この世界に飛び込んだきっかけや、考えていることなどを紹介していきます。 お店の顔が見えてくると、そこで繰り広げられる音楽の世界がより面白くなるような気がしませんか? 第7回は、三軒茶屋グレープフルーツムーンの店長 河邊健吾さんにインタビュー!

本日はよろしくお願いします。

まずはそもそものライブハウス業界に入ったご自身の経緯を伺わせてください

出身は北海道です。高校を卒業して東京に出てきました。高校ではバンドでギターをやっていました。一番最初にアルバイトをし始めたのが下北にあるアンチノック系列の屋根裏スタジオです。 当時アンチノック系列って新宿、西荻、高円寺とか沢山店舗があったんですよね。それが1997、8年くらいです。

自分でバンドをやることは26、7才くらいの時に辞めてしまいました。そこから何をしようかと考えていた中でたまたま目に入ったアルバイト募集がグレープフルーツムーンでした。時給何百円で受付や掃除をやりました。それと同時に、もう30才手前だったのでやりたいことを探していました、ここから何をしようかと。アメリカへ行ったりとかもして。

でも音楽に携わる仕事がしたいと思い、自分が演奏するのは諦めるけど裏方で支えようという決意をしました。グレープフルーツムーンでできることを頑張ってやっていこうかと考えていたら、当時のオーナーが辞めることになり自分が店長をすることに。それが30才手前くらいで、そこから10年以上ずっとグレープフルーツムーンで働いています。その他のことをやる余裕はなかったですね。

■グレープフルーツムーンは色々なジャンルをやっているイメージがありますが?

基本椅子席なので座って見てちょうどいいような音楽をやっています。なのでバリバリロックとかではないですね。でもこういうアーティストに出てほしい、こういうジャンルがいい、とかはお店側が決めていないです。そういうのはライブハウスにありがちですが、僕の中では薄いですね。僕が出て欲しいアーティストではなく、ここでやりたいと言ってくれるアーティストにいい環境を提示したいという気持ちです。

感覚的には音楽業界というより、飲食店をベースにしてやっている感じなんです。例えばすごく美味しいラーメン屋さんがあったら、どういうお客さんに来て欲しいかってあまりないと思うんですよね。お金持ちから労働者や学生まで、誰が食べても美味いものを提供するのが職人だと思っていて。発想はそういう方がどちらかというと近いです。こういうイベントがしたいっていうのがあれば話し合って良い状態でグレープフルーツムーンという空間でライブを提供する。もちろん音楽となるとやっぱり好みとかが出てしまいますから、それに準じたイベントやラインナップが色々ありますけどね。でも基本的にはこういうバンドにやってほしい、逆にやって欲しくない、というのは特にないです。いろんな人が入れ替わり立ち替わり、同じクオリティーや温度感で楽しんでほしいんですよ。

ラインナップが決まりすぎていると固まっていって動脈硬化を起こしてしまうと思うんです。毎日聴いていたら好きじゃなくなってしまったり、感動しなくなるということもあります。それなら僕は今日ロックやっていたら明日ジャズやってて、ポップスやったりソウルやったり、熱感が揃っていればジャンルは関係ないと思っています。その代わり唯一やりたくないと思うのは、音楽があまり好きじゃないんじゃないかな、と見え隠れするような案件です。

感覚論になってしまいますが、その人とその人が鳴らしている音楽がマッチングしていればいつでもウェルカムな箱でありたいです。

■どのライブハウスさんも苦境を乗り越えるべく試行錯誤をしている状況かと思います。コロナ禍になってどのように過ごされてきましたか?

先代のオーナーがやっていたのが2018年までで、僕がオーナーになったのは2019年からでした。なので2019年度が今の会社の第1期でした。外から見たらグレープフルーツムーンは20周年目で継続しているんですけど、中身としては大きな転換があったんですよね。その中でコロナ禍になった第2期の頭からイベントなどもなくなり、完全に収益が取れなくなってしまった。それがだいぶ危険だなと思いっていました、借金しかなくなる可能性があったので。 でもスタッフは自分についてきてくれたスタッフだったので辞めさせることはしたくないというのと、お店を潰すことはできない、という2本軸だったんです。 なんとかしなければいけないと思い、お金を借りに走ったり、ドリンク券とT シャツを売ってクラファンをしたり、音楽云々というより経営危機回避というところから始まりました。

なんとかその年は乗り切り、その後何をしようかとなった時に配信を始めました。 一番最初は配信業者に入ってもらいました。それでやってみたけどコスト的に合わないし、これを何度も行っても何も残らないと考え、自分たちでやろうということになりました。何回も失敗したし、色んなアーティストに迷惑をかけましたが、なんとかやれるようになりました。

自分たちの失敗って毎日連続している中の1つだけど、日々の業務のちょっとしたミスがその日のためにかけてきたアーティストや来てくださっているお客さんにとってはとても大きなことです。なので単調な仕事になってはいけないと思っているし、スタッフにもそれはよく言っています。そういう中で配信ライブのトラブルシューティングは非常に難しかったです。送り出せないとなってしまうとお客さんに見せるものが0になってしまいますから。今でも思いがけないトラブルって起こるんですよね、どこまでやっても。

ちょうど働いていたスタッフにカメラに詳しい子がいたりしたので、やろうとなったら比較的スムーズにできた部分はあります。クオリティーとかお客さんがライブを見ている感覚になれるかどうかというところはこだわりを持っています。 iPhone などで撮影したものを流すのが今までのツイキャスやインスタライブ、LINEライブでしたけど、そういうものではなくてライブに実際に行ったような気分になるもの、もしくはライブ DVDやライブMVに近いようなものを生で送り出したかったんです。単純にiPhoneをつないでとか、自動スイッチングを使うことは誰でも出来ると思ったんですよね。なのでいかに配信ライブのクオリティを上げるかどうかは大事だと思っています。

自分が田舎に住んでいたからわかるんですけど、東京でやっている好きなアーティストのライブを地方から見れるって結構革新的だと思っています。地方からグレープフルーツムーンのサイズ感でやるようなライブっていちいち見に来れないから、そういう意味では配信はすごくいいなと思います。地方に住んでいる方達は、東京に住んでいてライブがすぐ手に届くような人とは少し価値観が違うと思います。配信のコメントなどを見ていても、配信やってくれてよかった、など地方らしいコメントも多く頂きます。今まで箱に行けなかった層を掘り起こすってすごく大事だし、配信でしかできないことだと思います。これがもし10年前だったらできなかったことですしね。ネットワークの強さやインフラが整っている今だからこそできるものだと思います。コロナというビッグバンがなかったら配信ライブというものも生まれなかったし、災害があったからこそできたシステムだと思います。

逆手に取るしかないですからね。混乱が起きた時にそこに負けるのはだめだと思っていて、混乱に乗じるくらいの気持ちでやらないと、何かしらの理由をつけて辞める人と同じだなと思います。そういうふうには絶対なりたくないですね。その中で自分の店の一番ベストな舵の取り方って何かと考えた時に、2021年と2022年は配信に振るという考えにたどり着きました。スタッフみんなで研究、実験しまくりました。有観客でできないからとか売り上げが出せないから、というように配信を代価としては捉えていません。

ライブハウスっていつも同じ地下室にいる不健康な仕事でもあり、ここの場所に人を呼び込むために仕事をし続けるのって辛いんではないかなという風にたまに思っていたんです。なので最近はスタッフみんなで外に出て行って、例えばグレープフルーツムーンは100人くらいのキャパだけど500、600人キャパの外部の箱に行ったり、ライブハウスではない場所でやるイベントの撮影とかができるようになったのは良かったなと思います。

金銭的、経営的に大変なのはコロナ前もコロナ禍も一緒で、ライブハウスって元々そんなに潤うようなシステムではないです。そんな中コロナ禍でお客さんが減ったり稼働率が減ることでこの仕事をもうやりたくないって思うスタッフが増えていくのだけは絶対に避けたいと思っていました。コロナが終わった頃には強靭なチームになって仕事を向かえられるというのが自分の理想です。コロナがもっと早く終わると思っていたので今は若干しんどいですけどね。

とても試行錯誤しながら前進し続けているなと感じました。

そして最後に今後の展望をどう見据えているかも伺わせてください

コロナになって身に染みたのはお客さんが来てくれることって本当に大事だなということ。今まで考え得らなかったサービスなどもっとやれることがあるのではないかと思ってます。配信はお店には来ない、遠くにいる方々の顧客満足度を上げるものだと思いますが、今度は近所にいる人やこの環境下でもお店に足を運んでくれる人へ向けてどれだけ快適に、楽しく、来て良かったと思って帰れる場所を作りたいです。 店が綺麗だったり、掃除されていたり、スタッフの対応だったり、食事の味だったり根本的な飲食店としてのクオリティをあげることも大事だと思います。

この店に来たことによって楽しいという風に思えるものを今年はやりたいなと思っています。飲食のメニュー開発や最近始めたケータリングもそのうちの一つです。撮影現場とかコンサート現場に発注していただいてお弁当を持っていくケータリングサービスを始めたんです。この間も品川で配信をして、その現場にケータリングとカメラなど機材を一緒に持って行きました。 配信をやる際に一緒に弁当を持っていくスタイルで、それを食べて美味しかったら今度お店に行こうかなっていう風にもなりますしね。うちのスタッフは結構そういうのに前向きな人が多いから、あれもやろうこれもやろうってなるんです。それは本当に助かっています。遊びになったら駄目だけど楽しんでやれない仕事は続かないと思うんです。

ディナーショー形式のライブも始めました。チケット代は5、6000円するんですけどディナーコースが付いてくるものになっています。食材を余らせないようにしなくてはいけない部分などは難しいですが、こういうこともやらないよりも基本的に何でもやってみることを大切にしています。

■おすすめのアーティスト

Tokyo Groove Joshiです。女の子3人でファンクとかソウルを演奏するバンドで、3月12日に公演があります。結構海外からの視聴もあります。歌モノのオリジナルのバンドではなくて昔のソウルクラシックみたいなのを演奏します。見たことない人でも楽しめるようなバンドですね。男性がやるより若い女の子がバリっと演奏すると見た目も楽しいですよね。

Tokyo Groove Joshiには2ヶ月に1回くらいは出演していただいてます。プロモーション映像とかもうちの店で撮ったりして。再生回数が結構伸びてます!

■official web site→http://tokyogroovejyoshi.com/

■facebook→ https://www.facebook.com/TOKYO-groove-jyoshi-467704103715846/

■instagram→ https://instagram.com/tokyogroovejyoshi?utm_medium=copy_link

■twitter→https://twitter.com/TGJ_official_

■おすすめメニュー

タンドリーチキンがおすすめです。インド風ではなくて和風のもの。お店で販売していて評判が良かったのでケータリングにも入れています。