−配信が切り開く音楽フェスのニュースタンダード−
「音楽を愛する人にまみれ、音を浴びる」あの熱が渦巻く空間へ行きたくて、うずうずしていた私の気持ちがようやく晴れる日がやってきました!大自然に囲まれた二つのステージ間の移動もあるので、前日から泣く泣くタイムスケジュールも選び抜き、準備は万端。フェス会場で飲むのが一番おいしいZIMA片手に目当てのステージへ。さあ、ごった返す人だかりをかき分けかき分け、『MUSER FEST』と書かれたリストバンドが巻かれた右手で“マウス“をクリックする、、、、、、。
そう、上記の全てが事実でいて、全てオンラインで楽しんだ夢のようなフェスの話。9月11日〜12日に行われた配信フェスのニュースタンダード『MUSER FEST.2021 -MUSIC AID-』どこまでも愛のある最高の2日間、印象に残ったシーンのたくさんを、私音楽キュレーターのはろーがレポートします!
大丈夫。世界に近づくも4人は変わらない <CHAI>

CHAIを聴いている間は無敵なのです。初日のトップバッターを飾るCHAIが、この二日間の成功を約束させました。キュートとエレガントを閉じ込めた ピンクの衣装に、白のアディダスで締め上げ、横一線。のっけからショーのハイライトを見ているかのような『カーリー・アドベンチャー』の力強い演奏で幕が開ける。驚きました、この一曲で世界のどこかで行われているフェスだと錯覚してしまうくらい。。続く『クールクールビジョン』では早速ユウキはシンセベースへ!ステージングの楽しさも見せながら、4人の演奏とは思えないスケールの音をみぞおちに流し込み、スリリングに進んで行く。ここ最近サウンド面でも大きく変化を見せる中、CHAIが遠いところへ変わっていってしまっている訳ではなく、彼女たちのまた違う一面を見せてくれていると言うこと。初期の作品群も、アップデートさせながらセットリストに組み込みます。『IN PINK(feat.Mndsgn)』では体の内側にある音楽を体現したように、シンセが上品に響くやわらかなダンスチューン。ふわりとした中にもタイトな演奏をリズム隊にも注目すると一気に体にリズムが染み込んでいきます。マナカナが湿り気のある空気を孕んだ声と、ピンとはったカラフルな声を見事に使い分ける『チョコチップかもね』ホクロ讃歌はここで一度体温を下げてくれました。対照的にCHAIの代名詞でもあるエネルギッシュなバンドサウンドもより進化を遂げ、何度も聴きたい『N.E.O』ではベースとドラムだけで成立させる格好よさ、カナのリズムの幹になるようなギターとブリッジで急変する唸りを上げるような演奏の差もポイントです。

CHAIは自己愛を大切にたくさんのメッセージを込めて来ているわけですが、新たなアンセム『NO MORE CAKE』は、誰でもない自分でいることの大切さを伝えるI AM THE ANSWERな強烈なメッセージの一曲、ここで配信フェスとの相性の良さが光りました。突然の引きの映像から、黒装束にチェンジ、現実のフェスでもオーディエンスの空気をここまで一気に変えられるのは難しいはず! その後もぐるぐると世界は回り『PING PONG!(feat. YMCK)』ではまさにゲームの中に飛び込んだようにドット絵が浮かび、ソフトシンセのサウンドが煌めく音に2人の声がはまるはまる。こんなにも可能性の溢れた人になりたい!と思う一瞬でした。
「私たちも一ミュージシャンとして、チャリティーライブに関われて嬉しい。」という、なんとも正直なMCを経たラストソングは『Donuts Mind If I Do』自己紹介パートで『みんな一緒に長生きして行こうね!』の一節がずっと響いていたのですが、更に超えてひときわ刺さった曲になりました。胸をギュッと締め付けるメロディ、涙腺までも刺激する夢を見ているようなコーラスワーク。海外のレーベルSUBPOPで得たムードをそのままに、CHAIの現在地を垣間見ることができる素晴らしいステージでした。もしもライブエイドが開催されたら、日本からはCHAIが参加するのだろうな。多分ユナジャナもそう思っているはず。
<MUSIC AIDはチャリティーフェス>
CHAIがMCでもアナウンスしてくれたように「MUSER FEST. 2021 -MUSIC AID-」は、音楽の力でアフリカの飢餓救済を目的に開催されたチャリティフェス「LIVE AID」の精神を受け継ぎ、当時の舞台であった 、伝説のWembley&JFKステージを最先端の3DCGで再現し、「LIVE AID」さながらの熱狂とパフォーマンスを届けるフェス。
イベントの収益をもとに設立される「#Music Lives Matter 基金」
資金は全て音楽ライブの持続可能性に還元され、個人・法人を問わず、ライブ主催者はどなたでも配信ライブまたはリアルライブ制作費の一部を補助金として受け取れるという、まさに音楽を止めないを目標として掲げる愛が詰まったフェスなのです。
珠玉のバンドアンサンブル<bonobos>
世界のミュージックシーンを聴けば聴くほど、彼らのバンドサウンドは唯一無二のものとして燦然と煌めくbonobosの登場。さあ、音楽は止まらない。『THANK YOU FOR THE MUSIC』から始まり、誰もを魅了する蔡さんの声と、bonobosのハンモックに揺られるように心地よい時間が届きます。ストレッチするようなインターバルを置いたのち、マリンバを叩くように正確性のあるピアノリフがスピード感を煽る『Hello Innocence』に突入。時折ジャムセッションの現場に招かれたかのようなスリリングさが堪らない。もし時間が許すのなら、楽器隊一人ひとりに注目して何回も繰り返して聴いてみてください、例えば冒頭のピアノがギターのコードによって全く違う発色を見せたり、ずっと発見が尽きないbonobosの魅力がここに。

さて、ここでみなさんに耳寄りな情報。リリース前の新曲『KEDAMONO』がここで楽しめます。どこか遠い国で1人夜を見つめるようなイントロから、目が覚めるような銅鑼の音一撃!私はそこから揺れ狂いました。ドラムのシンクロしたメロディー、ビートの変化をくっきりと感じる中毒性が止まりません。リリースが待ち遠しい一曲を予習ができてしまうなんて!アーカイブ放送の特権をいただいてしまいましょう。
そして、昼に夜がやって来るような不思議な体験をしたのが『Crusin’ Crusin‘』音と音の隙間を楽しむ、よだれの出るようなグルーヴ。ライブではより自由になるボーカル蔡さんの遊びの効いたメロディー配りが大好きで、まさにこのタイミングで楽しめるはず。張るでもなく、抜くでもなく絶妙な匙加減が音に乗って情緒を誘う声にうっとり。さらに、ライブでしか聴くことのできないラストの恐ろしく格好いいキメと、ギタリスト小池龍平のガットギターからエレキに持ち変えた、最高に格好いい握りから繰り出されるソロも堪能してくださいね。

終盤戦では1年以上ぶりにドロップされた、韓国語と日本語と英語で素敵なバランスで成り立つ新曲『Not LOVE』が、さらなるbonobosのリリースの予感とともに演奏されます。いつもながら森本夏子の信じられないようなベースの動きとうねりに驚きながら、曲は進んで行きます。全体的に憂いのあるサウンドを、ブチ破るようなホーンセクションのコントラストにグッとくる。
もう終わってしまうのか、、、、。『グッドナイト』ではバッグのCGが深い夜に雪を降らせたような演出で、どこまでもトリップさせてくれるひとときに。バンドが試されるような、隙間がたっぷりなスロウなビートにいつもながら感動し、英語的な配置の日本語のメロディーと、どこまでも伸びのある声が輪をかけて感動を誘います。bonobosのその強烈なグルーヴを食らいに、普段はライブを見にいくのですが、配信ということで各プレーヤーがライブではどのようなフィーリングで演奏しているか、音源とは違う音が細かに耳に届いて新しい体験をさせていただいた気分です。またライブに行く事を決心した濃密な時間でした。
<気になるMUSERのシステム>
さて、私の視聴環境はというと、32インチのワイドモニターに、サウンドバーとウーファーという布陣で試聴しております。(今はパソコンもスマホもケーブル一本でテレビやモニターにつなげることができるので、さらに楽しむ手段としておすすめです!)MUSERさん並びに様々なシーンで配信ライブを視聴してきた中でも、今回のMUSERフェス映像、音質共に辛口に切ったとしても、「素晴らしい体験だった」の一言に尽きます。私たちはブラウザ上に設営された架空のフェス会場にアクセスし、現実のフェスと同様、会場内を移動しなければなりません。本当のフェスに来た気分になれるワクワク感の裏側には、ワンクリックでチャンネルを変えられない狙いのある不自由さ。さらに、アーティストのフィナーレと次のステージのオープニングを意図して被らせているタイムテーブルなので、当日はどちらかを犠牲にしなければなりません。(そのおかげで、聴けなかった曲があるんだぞ〜!!!泣)しかしながら、バーチャルな世界であろうとも、リアルなフェスへ近づくためのとことん愛のある設定。そのリアリティと不自由さとのバランスは視聴上不快になることは全くなく、より視聴している一瞬を大切に楽しみたいという気持ちが溢れました。
音質はその方の視聴環境に依存してしまうところはありますが、職人によるミキシングされた良質な音が届くので、奏者こだわりのより詳細な音の重なりを楽しみたい方など、私個人的にはリアルな会場より良い部分もたくさん見えました。特筆すべきは映像により豊かになる音の受け取り方。今回は楽器をスキルフルに演奏する方が多く、凄まじい指の動きや、バンドの呼吸にアイコンタクトなど、音がより豊かに聞こえる情報が常に入ってくることで、配信ならではの楽しみ方ができました。アーカイブ放送をご覧の方は、そちらの辺りも注目してはいかがでしょうか?
バンドセットで聴く、この上ない贅沢 <堀込泰行>
個人的に印象に残ったギグの一つ、10万人収容のJFKのお客さんに負けじと、久々のフルバンドセットでの登場!とってもチャーミングな女性の後ろ姿が浮かぶ、『光線』からショーのスタート。こちらの楽曲は、歌詞を阿部芙蓉美さんが書いており、女性に詩を描いてもらうというキャリアの中でも珍しく、受け取る側も泰行さんの伸びのある声がキュートに聴こえる新鮮さが印象的でした。続いても、新作FRUITFULから『5月のシンフォニー』ミントを浮かべたナチュラルウォーターのように爽やかな音が届きます。サビの転調の大袈裟すぎないドラマティックさが、堀込泰行バンドの妙だなと心が動きました。

続く『home sweet home』では、一面どこまでも真っ直ぐに広がる草原の中、ぽつんと佇むログハウスに招かれます。悠然とした大きなスケールの中、ギター八橋義幸のブルージーなプレイが胸を熱くさせます。
「リラックスした感じで演奏します〜」と、泰行さんのいつもリラックスさせてくれるのMCから『Sunday in the park』へ。原曲のSTUTSが鳴らすカラフルなトラックとは違い、バンドセットならではの低めの重心が心地よく、個人的に泰行さんの一番好きな声、ファルセットにかからないギリギリの音程のスムースな歌声を堪能。

どこまでも伸びやかな声に、うっとりしつつ終盤戦の『Here,There and Everywhere』『YOU & ME』ではシャウトにフェイクの応酬!アップテンポな楽曲が続きます。ベースには茅ヶ崎氏コーラスには真城めぐみ、ドラムは小松シゲル。いつかの記憶とともに楽しんだ方も多くいらっしゃると思います。私もそう!ちなみにチューブを加えながらの見た目も珍しい演奏方法は、トーキングモジュレーター と言いまして、、、、。そんな説明をしている暇もなく一気にクライマックスへ。
冒頭のドラムのリズムだけで涙ぐんでしまう『スウィートソウル』で終演を迎えました。作品によって声のアプローチも変えると仰っていて、ライブでもバリエーション豊かにビロードのような発声も聞く事ができ感無量でした。新譜のリリースもされ、映画の主題歌、たくさんのライブ情報の数々。これからもたくさんライブを楽しめそうな予感!下半期の堀込泰行も目が離せません。加速とスロウダウン、自在に乗りこなした新旧織り交ぜたセットリストは誰もが頬の落ちる時間でした。さて、堀込泰行さんのインタビューを聞きにいかなくちゃ!
<ラウンジ>
演奏終了後のラウンジコンテンツがとても有意義でした、、、、、。アーティストとアーティストの転換の間にもスペシャルな時間が用意されていて、当日は演奏が終わったばかりのアーティストが熱量そのままにトークを繰り広げる様を覗き見ることができました。サイコロ降って、エピソードトークして。アーティストが数十分トークしている姿を目にすることってそうそうなく、ライブ後なので饒舌にもなりますし、記事でも読んだことのないようなパーソナルなトピックも大放出!ファンにとってはこれだけでもお釣りが来るくらい、素敵な時間がありました。トークを楽しんでいると、次の演奏にいく時間を忘れてしまうほど!次回開催の際にはこちらも注目してみてくださいね!
<DAY1まとめ>
本日は全部で12組のアーティストの出演でした!一張羅を引っ張り出して彼のライブに参加した事を思い出させてくれたSIRUPは、まさにNo Stressな時間。バンド編成でのライブを家で楽しめるなんて罪な贅沢。ElujayやTopaz Jonesが彼の客演に来ても驚きではない、日本でこのようなフィールを生み出せる唯一のアーティスト。さらに、クライマックスにはアーティストこそ見て楽しみたい声の上がる、2000年代の楽曲を中心に熱いロックンロールを届けたオリジナル・ラブ!熟練のミュージシャンが揃う中、十代。ステージにひとり。という誰よりもミニマムなスタイルで、音楽に年齢などない事を改めて証明したDoul。少し前まで福岡のラジオを聞きながら必ず全国のデビューを確信していたので、震えました。1985年にDMCが出演したLIVEAIDのように、門は誰にでも開かれている、心意気を感じるブッキングも感謝が止まりません。
さて、全アーティストをレポートしたいところですが、DAY1はここまで!MUSERフェスは、自宅にパンフレットとリストバンドが届くところから始まり、まさに「チケットを購入してから帰るまでがフェス」を叶えてくれる新しい1日でした。音楽を愛する人、フェスを愛する人の気持ちにどこまでも寄り添ってくれる愛のあるイベントです。1日中ブラウザの中の会場をうろうろしておりましたが、あっという間に1日目が終わってしまいました、、、。確実に新たな風が吹いています。
DAY2の記事では、推しができた話。海外からのお客様の演奏にも注目し、伝説の1日となった理由に迫ります。配信フェスのニュースタンダード、ここにあり。
DAY2はこちらから。
はろー 《音楽を紹介するひと》
【感覚を大切に、音楽をやさしく言葉に。】
Instagramを中心に、日本のニューカマーはもちろん、国境もジャンルも飛び越え、あなたにぴったりな音楽をやわらかな言葉で紹介、キュレーションしています。
テレビ朝日系列『BREAKOUT』コーナーナビゲーター、アーティストインタビュアー、プレイリスト制作、記事執筆。インスタマガジン『Father』編集長。話すこと書くこと、多岐にわたって活動中。
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