−配信が切り開く音楽フェスのニュースタンダード−
「MUSER FEST. 2021 -MUSIC AID-」は、音楽の力でアフリカの飢餓救済を目的に開催されたチャリティフェス「LIVE AID」の精神を受け継ぎ、当時の舞台であった 、伝説のWembley&JFKステージを最先端の3DCGで再現し、「LIVE AID」さながらの熱狂とパフォーマンスを届けます。
思わず目を疑うような海外のアーティストの登場もあり、第一回目にして伝説の一夜となった二日目のレポートです。
世界に見つかるべき4人<新しい学校のリーダーズ>

めちゃくちゃに格好いいです、二日間における一番の驚きでした。ライブパフォーマンスを初めて見るアーティストに出会えるのも、フェスの醍醐味。MUSER フェスにて推しができるという。アイドルでもなければ、ラッパーでもない、唯一無二の青春日本代表、新しい学校のリーダーズに頭から度肝を抜かれる。1D J +3パフォーマーの新しいスタイルを披露。

アメリカに拠点を置き、MARVEL作品も手がけるなどアジアの才能を世界に発信する音楽レーベル「88rising」と手を取り合って(これが非常に凄い事、、、、、)楽曲をリリースした『NAINAINAI』から、セーラー服で武装し、異常なほどキレのある舞踏とラップ。世界を感じるパフォーマンスで幕を開けました。『オトナブルー』では昭和の名場面がプレイバックするような真新しさ。SUZUKAの世代を超える歌姫感と、ダンスをしながらのコーラスワークに驚く一曲。
その後も勢いはそのままに、4人の現在地を示すように、現在のプロデューサーyonkey氏と初期のプロデューサーH ZETT M氏との足跡を辿るセットリスト。
『恋の遮断機』『雨夜の接吻』『狼の詩』とH ZETTRIOをフィーチャリングした、超人的な演奏に乗ったパフォーマンスが続く。歌謡とジャズが織りなす未知の時代に引き摺り込むようにシンクロしたダンス「どうしてあなたが付き合っちゃうの」「若さがこんなに辛いとは」煮えたぎるような思いが、いとも簡単に突き刺さる。その理由を探ると一つの理由が、、、なんと阿久悠氏の未発表詞だったのです。MIZYUさんの透明感ある声がメインの曲もライブの中で一回しかないという流れも惹きつけられるひとときでした。
そして、ついに迎える最終曲は彼女たちを象徴する圧倒的なアンセム『迷えば尊し』ゴリッとしたロックに童歌のようなメロディで幕を開け、思わず腕を突き上げたくなるような琴線に触れるサビ。コロナ禍における無数の迷いを肯定してくれる一曲で幕を閉じました。
無観客での違和感を微塵も感じず、画面越しのお客さんを一番味方につけたアーティストは、世界に見つかるべき4人だと強く確信した40分でした。
体に染み渡る、熟練のグルーヴ<Ovall>

シークレットギグと言わんばかりの、直前の発表となったOvall、台風の目のように静かに、そしてグルーヴの渦を形成しながらmabanuaのドラムで幕を開けます。『Stargazer』キラキラと散りばめられた星のような音たちは、一小節を100個に分けたってその枠では解明できないような緻密なグルーヴ、最先端の技術X R L I V Eシステムの背景と重なりすでに夢心地。

続く『Dark Gold』でポップネス溢れるメロディと、軽やかなキメが体を揺らしにかかる。軽くワウの効いた関口シンゴのギターソロで心がホップする。私はコーヒー片手に楽しんでいたのですが、まさに昼下がりのコーヒータイムに我が家のリビングへOvallがきてくれたかのような感覚がなんとも贅沢でした。『Slow Motion Town』では雲間から晴れ間が指すようなコーラスが層をなし、音の粒が目で見えるようなハイハットから『Come Together』にスムースにつながっていきます。ついにmabanuaさんのクリアなボーカルが入り、Shingo Suzukiの大樹のようなベースが煽り立て、熱が高まる。みんなこの時を待っていたのでは。
コロナ禍によってメンバー同士頻繁に会えないことは残念だけど、それぞれの自宅で作品作りに励み、水面下では派手に動きを見せる!と、うれしいMCを挟み後半戦は秋を予感させるような、ミドルチューン・スロウチューンが続きます。時を止めるような一発のバスドラム、もうこのあたりから、トリップ。ヨレているけど清潔なグルーヴが病みつきになる『Triangular Pyramid』/『Shadows & Lights (Surrealiste)』では発見がありました。BPMのゆっくりの曲では、ミュージシャンの指先や呼吸まで隅々に楽しめるのはオンラインならではだと感じました。遊びと緻密さが凝縮されたグルーヴが空間を支配するようにして、これ以上ないコーヒータイムは『Take U To Somewhere』で終焉を迎えました。
<世界同時フェス>
「MUSER FEST. 2021 -MUSIC AID-」では、世界各国にプロモーション・チャネルを所有している配信プラットフォーム「LiveFrom」と連携して世界同時に配信されています!今までの世界に届くべき日本のアーティストが、今回の重点エリアに位置付けた「アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド」に届いているのです。ということは、逆も然り、、、、続くアーティストはオーストラリアからのお客様。
一度として同じ空気、音は生み出されない<Swooping>
たどり着いた熱帯雨林。静けさと不穏な空気が充満する空気を醸し出し、1時間あまりインプロビゼーションの旅が始まる。メロトロンをはじめ要塞のように積まれたキーボード、グルーヴの核となる六弦ベース、民族楽器と見られる太鼓がいくつも組み込まれたドラム。Swoopingは、素晴らしい新作が記憶にも新しいHiatus Kaiyoteのネイパームを除く3人による新プロジェクト。2018年に来日した以来なので、まさかこのタイミングで聴けるとは!

即興性の高い音楽で、歌詞もなければ、明確なメロディーもない。初めて聴いた方にとっては正直なところ難解だったかと思います。ただ、ベースやドラムがリズムを形づけていくことで、先ほどまで右も左も緑地だった所に、だんだん道路が整備され建造されていく。びゅんびゅん車が走り、恐ろしいほどにスピードを上げて車両が通る。不思議と体が動いていた方も少なくはないでしょう。シンセサイザーが生ぬるく充満する中、スティックの真ん中を握り片手だけで繰り出す32部音符のビート、6限のベースはハイトーンでギターのようなリフを挿し込む。ギターレスの面白みがここに。全員のリズムとグルーヴが乖離していくような、ネオソウルを強く感じるハイエイタスの色は終盤で少し見せてくれましたが、全く別のサウンドを見せてくれるswooping。水滴が落ちるような音がドロップされながら、また草木が鬱蒼としげる場所へ展開される。甘美なローズの音に酔いながら記憶に刻まれる旅でした。
移ろう景色を語るのに、言葉はいらない<jizue>
京都を拠点に結成15年という節目の年を、力強く加速していくjizue。音で会話することを楽しむかのように、その姿はナチュラルでいて実はコーナギリギリを攻めるアンサンブルに震えました。細かなピアノの音の粒がそよそよと風を運んで、ギターのテーマは緑の香りがする『grass』で幕を開けます。ウォーキングベースで一歩深い緑の中へ誘われ、8分の7拍子であれポリリズムであれ複雑な音符の配列でも、私たちを踊らせポップに昇華させているjizueにしか表現できない音楽を一曲目からたっぷりと堪能。勢いそのままに『trip』でも、ギターが外枠を作り上げ、パズルのように音が組み合わさっていきます。中腹で待つユニゾン部で踊らせにかかり、スリリングなセッションとほっとさせてくれるテーマが同居している匙加減が、セッションに夢中にさせる。 京都で活動している背景が先入観として入って来ているためか、個人的に仏閣をめぐる時の静かな気持ちや、職人が工芸品を作り出すようなわびさびを感じるひととき『Kiji』。

まだまだ勢いは増していきます。音の洪水は止まらず、コントロールされた雪崩れは美しい『atom』そして、片木希依による柔らかでクラシカルな前奏、花の開花を予想させるような『old story』へ。「久しぶりに大きな音で演奏できたり、たとえS Eでも長いこと歓声を聞いていなかったから、ジーンとした。」という何気ない言葉に私も胸を打たれたばかりなので、今回のライブで最も胸に残った楽曲の一つになりました。ドラマティックな夜を、バッハも聴いているんじゃないかなと思います。

あっという間のラストソングは、情熱の音楽で幕を閉じる『marten』山田剛のベースラインが先頭に立ち、ぐっとラテンの国へ引っ張る一曲。頭はクールに心はマグマを煮えたぎらせたjizueの素晴らしさを大発見したパフォーマンスでした。「画面の向こうのお客さんも楽しんでいますか?いや、画面の向こうとかないよなあ」と茶目っ気たっぷりなやり取りの中に、普段のライブと変わらず目の前にお客さんがいる想定で熱い演奏をする、jizueに大きな感謝です。あ、もう想定っていう言葉が良くないね笑
冗談じゃなく、視聴が財産になる<DMC from RUN DMC>

DMCが世代じゃなくてもいい!(私も全然違う!笑)いつの日かこのライブを見たことが財産になること間違いなし、多くは語らないので是非見届けて欲しい。音楽界に激震が走った1985年。カリスマ中のカリスマが集う言わば“ロックの祭“LIVE AIDに、デビューしてまだ間もないRUN DMCは一部から強烈な逆風が吹く中、与えられた時間はわずかながらですが出演を果たす。という、ヒップホップ界にとって重要な出来事がありました。LIVEAIDの意思を継ぐMUSERフェスのコンセプトに共鳴したDMCは、なんと2002年の活動休止以来に立ち上がります。ひとつだけレポートすると、往年の名曲をスペシャルゲストの実の息子マクダニエルJr.と歌い上げる、貴重すぎるシーンに遭遇して卒倒しそうになりました。ご存知の通りTiktokやインスタグラムで使用され「It`s Tricky」が鬼のようにバズりを見せてたこともあり、スマホネイティブ世代全員が耳にしたことのある楽曲の数々。ドンピシャ世代の方はもちろんのこと、彼のパフォーマンスを見逃さないわけにはいかないでしょう!
さて、二日目も素晴らしいアーティストの皆様の名シーンを振り返ってきました。私自身もクラシック畑出身ということもあり青春の全てを音楽に捧げたり、長く音楽の近くで演奏や勉強をしてきましたが、ライブがこんなに心を動かしてくれる尊い芸術だということを強く確認できたこと。諦めてしまうことに抵抗がなくなってきたコロナ禍における、希望でありしあわせです。音楽を止めないために、このプロジェクトに参加した皆様にこの場を借りて感謝いたします!この二日間のありがとうが溢れ出した、サニーデイ・サービスの一曲目『恋に落ちたら』のイントロから心を掴まれ、「希望」を音にしたかのようなパフォーマンスに乗り出すように聴いていましたが、曽我部さんの「寝転びながらも、ビール片手にでも、リラックスした体勢や環境で楽しめるってとってもいいことだよね!」という言葉に救われました。そして、ライブ終わりのアーティストのみなさんが口々に「不思議なことだけど、私たちも会場にいる気分で演奏できる」と、発言されていたのも印象的で、演奏されている方が違和感なく熱量を発揮できる環境があるからこそ、私たちオーディエンスも新たな形に戸惑いさえありましたが、そんなことを払拭してライブに没頭できたんだと感じますし、XRの視覚効果と技術はビジュアルの素晴らしさだけではなく、感じ方の隅々まで影響していました。
リアルなフェスができることは誰しも願っていること。ただ、今後ハッピーな未来が待っていたとしても、MUSERフェスはこの形を保って強く生き続けるような、配信フェスの地位確立と、新たな道を切り開きました。配信ライブではなく、配信フェス!歴史的コンテンツの幕開けと同時に、基金も立ち上がります。ひとりひとりの未来が切り開けるきっかけになりますように。
あぁ「また来年お会いしましょう」の一言にジーンとする、帰り道。
白いグレッチに持ち替え、曽我部恵一という私のギターヒーローが決まった日。
ジーンと寂しくなってるということは、記憶に残るフェスだったということだな〜
みなさん、まずはアーカイブ視聴を!笑
それでは、また来年お会いしましょう!
はろー 《音楽を紹介するひと》
【感覚を大切に、音楽をやさしく言葉に。】
Instagramを中心に、日本のニューカマーはもちろん、国境もジャンルも飛び越え、あなたにぴったりな音楽をやわらかな言葉で紹介、キュレーションしています。
テレビ朝日系列『BREAKOUT』コーナーナビゲーター、アーティストインタビュアー、プレイリスト制作、記事執筆。インスタマガジン『Father』編集長。話すこと書くこと、多岐にわたって活動中。
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