2020.12.22
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【音楽ライブ配信MUSER】トロイ・カーター氏「音楽業界はビジネスモデルを変えなければならない。シンプルなことだ。」

MUSERが注目する世界の音楽ニュース

ライブを見ながら、アーティストを応援するための配信プラットフォーム「MUSER」が注目する世界の音楽ニュース。レディ・ガガの仕掛け人であり、元Spotify幹部。現在は音楽ディストリビューション会社Q&AのCEOトロイ・カーター氏へ、音楽業界ニュースサイトMusic Business Worldwide(以下MBW)が行ったインタビューを紹介したい。


アーティストマネージャー、Spotifyのクリエイターサービスのグローバルヘッド、Q&A CEOを経験してきた彼は音楽業界の今後について何を語るのか。


カーター氏はこれまで様々な角度から音楽業界に携わってきた。

ロサンゼルスがベースのアーティストマネジメント会社Atom Factoryで、レディ・ガガやEveなどのマネージャーを務め、大手音楽レーベルとの繋がりも強いトロイ・カーター氏。彼は、Spotify、Uber、Lyftの初期投資家でもある。

2016年にカーター氏はSpotifyにフルタイムとして参画し、Spotifyクリエイターサービスのグローバルヘッドを担っていた。そこでは、ストリーミングサービスが今後の音楽業界を牽引することと、アーティストとSpotifyのより良い関係性の構築を目指し活動していた。

2年後、カーター氏はSpotifyを去りSuzy Ryoo氏とJ.Erving氏とともに自ら音楽ディストリビューションサービス企業、Q&Aを設立した。

Q&Aは、大型独立系アーティストのPink Sweat$やBaby Roseにサービスを提供しており、アーティストにとって最適なテクノロジーを使ってサービスを提供していると自負している。

そして、今週Q&Aは、ロサンゼルスのベニスにVenice Innovation Labsという社内用のソフトウェア部を設立した。そこでは、ベータ版の曲をレコードしたり、アーティスト名簿にアクセスできたり、効果的かつ効率よくディストリビューションができるという。

その一環として分析アプリ「StreamRate」とレーベルマネジメントツール「Venice for Labels」が12月14日にリリースした。

Q&Aは、その他にもJ.Erving氏が保有するディストリビューション会社Human Re-Sourcesをソニーミュージックが買収したことでニュースを飾った。これにより、Human Re-sourceからグラミー賞にノミネートまで上り詰めたインディーズアーティスト、アント・クレモンズもソニーミュージックに移り、メジャーデビューすることとなった。

そんな中、カーター氏は MBWとのポッドキャストでQ&Aの未来ついて語った。

以下は、その内容をまとめたものである。

Q&A,そしてJ.Erving 氏がソニーミュージックにHuman Re-sourceを売却するまでの経緯を教えてください。

今の音楽業界はとても興味深いタイミングにある。ソニーミュージックは彼らのThe Orchard*のラストピースとしてディストリビューションサービスが必要だったのだろう。私とJ.ErvingとRob Stringer*はとても良い関係にある。Robはまさにレジェンドだ!だから、ソニーミュージックにアプローチされた時は全てがスムーズだったよ。Human Re-sourceはまさに、ソニーミュージックが求めていたものだし、我々にとって良い取引だった。

*The Orchard:ソニーミュージックの子会社。音楽、エンタメの配信を行う。

*Rob Stringer:ソニーミュージックエンターテイメントCEO

Q&Aは、Venice Innovation Labsの設立を発表しました。あなたをそこまで音楽ビジネス業界で貪欲にさせるものはなんですか?

我々は、次世代の音楽業界の入り口にいる。私が、Spotifyにいた時、Spotifyが他の音楽関係会社よりはるか未来の音楽業界を描こうとしているのに気がついた。Daniel Ek*は我々より10年先の世界に住んでいるんだよ。そこで、私は「他の音楽会社も同じように能力・展望を持っていたらどうなるだろう」と考えたんだ。テクノロジーの会社やソフトウェアの会社が音楽のサービスを作るのではなく、我々音楽業界の中の人間がそういったサービスを作れたらどうだろうか?

それが可能になれば、より効率的にマーケティングができたり、アーティストによってはより良い環境になる。音楽業界にはそういった、テクノロジーに強い人が足りないんだ。


*Daniel Ek:Spotify最高経営責任者


近年、AIや機械学習がA&Rに影響を与えています。テンセントがAIを使ったA&Rプラットフォームを開発するInstrument社に投資を行ったりしていますが、これに対してはどうお考えですか?

音楽業界の問題のひとつは、皆が同じ池で釣りをしていることだ。皆が同じデータにしかアクセスしないから皆同じことをする。

それは、音楽業界の価格競争にしか繋がらない。ユニークなデータからユニークなサービスやプラットフォームを提供してこそ音楽業界の競争が良い方向に向かう。

AIが行うA&Rはそのアーティストの成長速度しか見ていない。アーティストとの契約はより複雑に様々な要素が考慮されるべきプロセスなはずだ。


現在、一日に4万曲以上がSpotifyにアップロードされています。これに対して、新しいアーティストにスポットライトが当たるのが難しいという批判がされていますが?

それは、アーティストに負担がかかっているのではなくレーベルに負担がかかっている。それだけ、曲が一日にアップロードされればユーザーがトップスターだけに集中することは少なくなるだろう。この集中はストリーミングサービスにとってはプラスであり、レーベルにとってはマイナスである。

しかし、レーベルもスーパースターを育てる能力を完全に失った訳ではない。急がないことが重要だよ。良い音楽を素晴らしいアートとして届けることに集中すれば良い。アルバムのフォーマットや音楽の聴き方は変わったかもしれないが、良い音楽には人が集まるという本質は変わっていないはずだからね。その音楽の本質とテクノロジーの両立がこれからは大事になってくる。


Jody Gerson* 氏は我々とのインタビューでストリーミングサービスはレーベルやアーティストにより多くの曲をリリースすることを強要しているとおしゃっていました。それに対してカーターさんの意見を教えてください。

確かに、多くのアーティストは量での勝負をしている人が多い。そして、ストリーミングサービスにとって曲の数が多いことはアドバンテージである。曲数が多ければユーザーはそのストリーミングサービスを使うようになるからだ。

このことから、多くのアーティストは曲をいっぱい出さなきゃ他のアーティストに置いていかれてしまうとい恐怖に駆られている。しかし、アデルやレディ・ガガ、ドレイクを見ると彼らは自分のペースでアルバムや曲を出している。曲を出さないことに恐怖心がないのだ。そして、彼らが曲をリリースするとちゃんとヒットする。他のアーティストも彼らのように焦らず自分のペースでより良いものをファンに届けることにコミットした方が良いと思うよ。そうすれば、結果も自ずとついてくるから。


*Jody Gerson:ユニバーサルミュージックパブリッシンググループの会長兼CEO



近年、独立系アーティストの市場が成長を続けています。このトレンドは音楽業界にどのような影響を与えると思いますか?

独立系アーティスト市場の成長は明らかだ。しかし、その市場が多くなりつつも、独立系アーティストをサポートできるディストリビューターはまだまだ足りない。特に、独立系アーティストを成功へと導けるクオリティーの高いディストリビューターはね。

独立系アーティストのマーケットはこれからもどんどん大きくなるだろう。プライベートエクイティーファンドとかクラウドソースキャピタルとか今まで音楽業界に現れなかったようなところが、今まで見たことないような額のお金を投入しているからね。

このお金が独立系アーティストの成長をサポートする環境整備に使われたら、音楽業界は近い未来大きなシフトを経験すると思っているよ。独立系であることが悪いことではなくなるんだ。アーティストはレーベルに所属しなくても生活ができるようになって、自分が納得する契約ができるまでレーベル会社に「ノー」が言えるようになる。



では、レーベル会社は同様に対処していくのでしょうか?

それは、ソニーミュージックがHuman Re-sourceを買収したことが答えだよ。これからも、大手レーベルによるディストリビューションサービスの買収が増えると思うよ。


少し、話題を戻してSpotifyの話をしましょう。Spotifyはあなたが辞めてからも、年々成長をしています。それは、株価を見れば明らかです。その要因のひとつとして言われているのがポッドキャストの戦略でしょう。しかし、多くの投資家はどのようにSpotifyが収益力を上げていくのかに注目しています。これについての考えを聞かせてください。

Spotifyはとてもよくやっているよ。DanielがDawn Ostroff*氏をコンテンツリーダーとして採用した時は多くの人がそれを疑問視したけど、今見るとDawnは信じられないほどよくやっている。


*Dawn Ostroff:アメリカの企業家。現・Spotifyのチーフ・コンテンツ責任者兼広告事業責任者であり、コンデナストエンターテイメントの社長でもある



ポッドキャストについては色々言われてるけど、結局はどのように消費者体験を高めるかのための戦略なんだよ。それと当時に、Spotifyにとって音楽が重要なことは変わりない。ポッドキャストに注力はしているけど、その中心には音楽が必ずいるんだ。今は、色々試している段階だと思うんだ。

その一方で、Spotifyが音楽を使って利益を向上させる方法を見つけなければならないのは間違っていない。例えば、Spotifyがアーティストがより多くのファンと繋がるために貢献し、そのアーティストのチケットが販売され、結果としてアーティストの収入が増えているなら、Spotifyにその一部が入るようになってもおかしくないと思う。

ストリーミングサービスの音楽業界への貢献はすごく大きい。レーベル会社はアルバムをマーケティングしなくてもストリーミングサービスを通して収益を上げられるようになったのだからね。アーティストのマネージャー、レーベル会社、ストリーミングサービスの3つの立場を経験してきた僕から言わせると、今後この3者は”Frenemy(フレネミー)”(Friend[友]とEnemy[敵]を合わせた造語)になるだろうね。敵同士でありながら、お互いが必要になっていくんだ。


チャンス・ザ・ラッパーと彼のマネージャーPat Corcoranが関係を決裂したことは独立系アーティスト界隈にとってはすごく寂しいニュースでしたね。おそらく彼の成長のスピードがマネージャーとの間に壁を生んでしまったのでしょう。このニュースから音楽業界、独立系アーティストが学べることはなんですか?

僕も同意するよ。ニュースを見た時とても悲しかった。チャンスとPatの関係はインスピレーショナルだったからね。Patは僕が今まで見てきたマネージャーの中で一番賢いマネージャーだった。それは、チャンスの作品にも現れているよ。でも、これはチャンスが独立系だったからとかは関係なく、一人のアーティストとしての問題だと思うよ。でも、マネージャーと問題がなかったアーティストなんてビートルズくらいなんじゃないかな。まぁ彼らだって、結成7年で辞めちゃったからカウントしないけどね。だから、アーティストにとってマネージャーと色々揉めたりするのは普通のことなんだよ。

もちろん、僕はチャンスとPatの間に何があったのかは詳しく知らない。でも、アーティストとマネージャーは二人三脚で成功した時は一緒に喜んで、失敗した時は一緒にどうするかを考える、そういう関係でなきゃいけないと思うんだ。


その一方で、カニエ・ウェストがこの前自分のマスターをレーベルから買い取れなかったとツイートしてましたね。テイラー・スウィフトだって、自分のマスターを2回もレーベルに売られている。このアーティストとレーベルのパワーバランスについての考えは持っていますか?

音楽業界は、そのビジネスモデルを変えなければならない。シンプルなことだよ。新しいアーティストはどんどん賢くなっている。レーベルは貪欲じゃダメだ。でも、平等に見るとレーベルだってリスクを負っている。売れるか分からないアーティストに対して数百万ドルも投資するんだからね。でも、そのアーティストが成功したのならば、今のビジネスモデルのままだと不公平な気がする。

だから、例えばアーティストが売れる前は伝統的なレーベル83%、アーティスト17%でもいいと思うんだ。でも、もしそのアーティストがロディ・リッチとかになって、レーベルがリスクを負わなくてよくなったらこの比率をアーティスト75%、レーベル25%に変えてもいいと思うんだ。

このように、リスクに報じて報酬が変わってくるビジネスモデルはどんどん採用されると思う。というか採用されなければならない。なぜなら、今の時代多くの起業家がアーティストに優しいビジネスを構築して、成功しようとしているからね。今のままでは、レーベル会社は彼らに負けちゃうよ。


つまり、あなたは今後レーベル会社はリスク・コストの少ないビジネスモデルに変化していくとお考えなんですか?

そうだね。僕の予想だと、レーベルは近い未来マスターを保有しなくなると思うんだ。例えば、アーティストがある一定のレベルまで到達すればマスターを返却してもらえるみたいな。それで、ずっとアーティストが成功しなければ、レーベルそのマスターをずっと保有してコストを回収すればいいんだ。そうすればフェアだろ?


音楽業界のもうひとつの一大トレンドは、最近新しい投資家が増えてますよね。ウォール街の人たちだったり、株式市場からだったり。このトレンドを長期的に見た時、音楽業界にどのような影響を与えると思いますか?

音楽業界は、もうすでにその影響を受けているよ。Merck Mercuriadis*のHipgnosisはカタログオーナーシップの常識を変えた。だって、数年前まで作曲家にとって自分のカタログは資産だった。自分のカタログを手放すことはタブーだったんだ。

Merckは本当に才能を持っているよ。彼は、アーティストとカタログについて対等な目線で話せるからね。ただ、お金を持っているだけではダメだ。Merckのように信用を勝ち取ってないと。


*Merck Mercuriadis:カナダ系アメリカ人、音楽業界の企業家。Hipgnosis Songs LimitedのCEO


最後に、ある独立系アーティストがストリーミングサービスで急に注目を集めたとしましょう。彼にどんなアドバイスをしますか?

自分を信じることを忘れてはいけないね。

レーベルと契約して自分が思っているようにできなくなってしまって後悔しているアーティストをここ数ヶ月で何人も見てきた。だから、目の前のテーブルに置かれたお金だけでレーベルを決めないこと。少なくても、自由にやらせてくれるところ選んだ方が良いよ。


ありがとうございます。

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