====== MUSERライブハウス インタビュー ======
スポットライトのあたるステージの裏側の世界。ライブハウスを運営しているスタッフの方へのインタビューを通して、この世界に迷い込んだ道程、考えていること、オススメアーティストなどを紹介していきます。お店の顔が見えてくると、そこで繰り広げられる音楽の世界がより面白くなるような気がしませんか?
第5回は、青山 月見ル君想フの店長 タカハシコーキさんにインタビュー!
【月見ル君想フで働き始めるまでの経緯】
「18年前、自分のバンドを始めたてで出演する場を探していたんですけど1回のライブをやるのにすごくお金がかかって、毎月やるとなるとかなりの出費になっていました。やっていく中で壁を感じ、狭い世界の中で広がりを感じることが出来ずかなり絶望していました。
そんな時にたまたま知り合ったアメリカ人とアメリカに行く話があり、運良く現地でツアーをすることが決まりました。西海岸のシアトルやポートランドなど5カ所位でツアーをしたんですけど、当時の東京と比べると真逆の環境に驚いたことを覚えています。そこには音楽を聴きたい人に届けるための場所が揃っていました。
例えばライブハウスの場所って東京でその辺に歩いている人に聞いてもわからないけど、シアトルだと町の人がすぐに教えてくれるんです。そしてどの箱も共通していたのがチケット代がすごく安いということ。一人5ドルぐらいでしたかね。飲み代で売り上げを出してチケット代は100%バックでアーティストにいくんです。そして騒音問題もないから窓から音が漏れて、通りに歩いている人が、いい音楽が聞こえるとチケットが安いから入ってきて、良い循環ができているんです。
社会の中で音楽が消費されてリスペクトされている環境がアメリカにはあって、それは当時の僕からしてすごくびっくりすることでした。自分は演者側としてその環境にすごく感銘を受けて、東京でこの環境を作りたいと思いました。そこから初めて作る側の視点になりました。
それから東京に帰り、知り合いの工房を手伝っていた時に、 たまたまJ Waveで流れていたラジオ番組の外タレ公演の告知で「会場は月見ル君想フです」と流れていたが耳に残っていて、なんとなく電話をかけてみたのです。そうやって月見ルと出会いました。それが12年前。最初はカウンター担当でしたが2、3ヶ月後から制作を希望して、そこからずっと制作を続けています。
月見ルに入った時はちょうど5周年の時で今年が18周年の年になります。」
日本と海外とでは人気のある音楽や普段の生活の関わり方など文化の違いがありますが、音楽の「場」を作ることが新しい価値観を生み出していく、高橋さんの多角的な視点の原点が伺えます。
【コロナ禍で工夫したこと】
「かなり早い段階で配信に着手をしていました。というのも2020年の2月、コロナがまだ初期のころ、スタッフで中国人の方がいたり、青山でフェスをするにあたって中国のアーティストを呼んでいたため、コロナの状況的に日本よりも進んでいた中国の動きをずっと追っていたんですよ。当日の中国では、オンラインでフェスが行われたり、なんとかコロナの状況でも音楽産業を絶やさないように、様々な工夫がすでにされていました。そのフェスでは結局中国のアーティストの来日は諦め、技術的な問題もあって、生配信も難しく、収録をした映像を上映することにしました。そんなこともあり、これからは配信で乗り切る時代が来るのではというのは早い段階から見えていました 。その後社内で緊急会議を開き、これからどう配信でやっていくかを話し合いました。その後一週間以内にはもう配信をスタートさせていましたね。そこから色々と試行錯誤を繰り返して、毎月平均10本くらいは配信していました。 最初は機材はもともと持っているものなどを使用していました。スタッフで機材に詳しい人がいたのでその人に教えてもらったり、知り合いを呼んで講習会などを開いたりしていました 。」
新しい試みを常に実践する月見ルのスタイルが先見性を持っていたことが伺えるエピソードです。
【今後の方向性】
「基本的には変わらないと思っています。今後も状況が一気に好転はしないと思うし、お客さんを入れつつ配信もやっていく方向の予定です。常に面白いものを発信したいという、ライブハウスとしてのスタンス的な部分ではコロナ前、コロナ中、今、変わらないと思っているのであまり動じていないです。自分の中でベースには常にアメリカでの経験があり、それを東京で実現するにはブッキング力より「企画力」が重要だと思っています。どういう企画を僕らが打ち出していってそこに巻き込めるかどうか。その努力を箱側がどれだけできるかが音楽イベントを面白くするための肝だし、僕らの存在意義かなと思っています。面白いことを作っていく上で、コロナによって何ができて何ができないかが少し変わっただけで根本は変わらないですね。」
「コロナは大変ですけど、毎日が楽しいです。大変なのはもともとだからある程度慣れています。やりたいことをやるためにこの場があって、やりたいことを実現しているので、環境が少し変わっただけで根本は変わっていないと思っています。」
コロナ禍の目の前の現状でなく、これまでとこれからの長い道程の中で今をどう動くかというぶれない姿勢が伺えるインタビューの時間でした。
【おすすめのイベントやアーティスト】
「2022年1月29、30日に行う能楽堂のイベントは特別ですね。全部で3公演やるんですが、場所の持つパワーも借りて、畳、座布団で音楽を聴く気持ちのいいイベントをやろうと思っています。その翌日からはグランドピアノを月見ルのステージ上に入れて1週間くらいピアノイベントをしますね。3月半ばには日本酒と極上の刺身を仕入れ、桜の木を持ってきて5日間に渡ってイベントを行います。近藤康平さんという素晴らしい画家の個展をやりながらライブもブッキングしているんですけど、メインはお酒と刺身を楽しむイベントとなってます。これは自分が楽しみでしょうがないんですよね(笑)。」
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「おすすめのアーティストに関しては、コロナ禍で覚醒したアーティストって音楽性が素晴らしいだけではなくそのバイタリティが素晴らしいと思っていて、リスペクトしかないんですよね。

何人かいるうちの1人は別所和洋くん。彼は本当にコロナ禍になってから覚醒した動きをしている1人かなと思います。ピアノの実力とか音楽性も元々すごいものを持っているんですけど 、1年ほど前にジャムで出会ったメンバーを入れたバンドで“パジャマで海なんかいかない”という5人編成のバンドを始めていて、それをしながら主催フェスを企画しつつ、自分のソロツアーをしたり、相当な動き方をしていますね。 このバンドの音が、また最高にかっこいいのでおすすめです。
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もう1人はタップダンサーのSAROさん。彼はずっと家で配信をしていましたけど、最近はどんどん外へ出て行って誰かとコラボしたり、そのあと家でも配信したり。イメージしたものを実現するのがすごく早いですよね。つい最近こんなのやりたいんだよねって言っていたことが年末に実現されていたり。コンサートホールを借りてオーケストラを連れてボレロをやるみたいなものだったりとか。フットワークが軽いんです。タップダンスのセンスや音楽性はもちろん、常に刺激的で面白いことをやろうとしている姿勢にも本当に刺激を受けています。是非彼の演奏は生で見ていただきたいと思います。」
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【お店のおすすめメニュー】

「定番メニューは魯肉飯(ルーローハン)です。実は月見ルの魯肉飯は本場に寄せているものではなく、シェフが日本人の舌に合わせてリアレンジした一品です。 本場のものよりもあっさりしていて、おすすめです。お持ち帰りもあるので是非家でも食べてほしいです。
それと、うちは企画ごとに料理を考えたりもします。昨日はアラブ料理を出しましたし、専門のキッチンスタッフが企画に合わせた料理を一緒に考えて開発しています。料理も大事なイベントの要素ですので、常に特別感のある日が作れたらと思っています。」

■青山月見ル君想フ■
公式サイト
https://www.moonromantic.com/
公式Twitter
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