MUSERが注目する世界の音楽ニュース
ライブを見ながら、アーティストを応援するための配信プラットフォーム「MUSER」が注目する世界の音楽ニュース。今までは海外に目を向けニュースやインタビューを紹介してきたが、今回は日本に関するインタビューを紹介する。
ワーナーミュージック・ジャパンCEOの小林和之氏が語る日本音楽業界の今後とは!?
5大音楽マーケットの中で日本だけが異質だ。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスは音楽ストリーミングが音楽業界の売上の大部分を占める。一方で日本ではまだCDが王様のようだ。
RIAJ(日本レコード協会)のデータによるとコロナによって大打撃を受けた2020 年1月〜9月における日本のオーディオ収益の61.8%はCDによる売上だ。その一方でストリーミングも伸びつつあり、オーディオ収益の27.5%を占めた(2019年は19.3%)。
ワーナーミュージック・ジャパンのCEO小林和之氏によると、このストリーミング世代の中で日本の音楽業界が未だフィジカルな媒体に支えられている理由は、日本のコレクション文化が関係しているという。
「日本の音楽ファンはフィジカルな音楽媒体を集めるのが好きなんだ。伝統的に日本人はラジオなどで他の人がおすすめする音楽を聴くより、自分が本当に好きな音楽を集めて聴く方を好んでいて、それがこのデジタル世代にも受け継がれている。」
小林氏はソニー・ミュージックエンタテインメントの日本役員としてソニー・ミュージックのライブベニュー、チケット販売、雑誌出版を管理していたが、2014年にワーナーミュージック・ジャパンのCEOに就任した。彼は、キャリアはギタリストとして始まり、レーベル関係のキャリアは2002年にエピックレコードジャパンに参画したことから始める。エピックでは、YUKI、鈴木雅之、岡村靖幸を担当したのちCEOとして活動している。さらに、CEO時代にはDefstar RecordsとアリオラジャパンのCEOも担っていた。2013年には、ソニー・ミュージックのM-Onエンタテインメントの代表に就任した他、Zeppライブエンタテインメント 、 e+(イープラス)そして株式会社レーベルゲートの責任者としても活躍した。
今回は、そんな小林氏にコロナの日本音楽業界への影響、日本人アーティストのグローバルデビューの難しさ、そしてワーナーミュージック・ジャパンをストリーミングファーストのレーベルに変えるという目標について伺っていく。
➖日本の音楽業界はコロナウィルスにどれくらいの打撃を受けたのですか?やはり、CDショップなどへの人足が減少したことで売り上げも減少したのでしょうか?それとも他国のようにオンラインでの消費が売り上げをした支えしたのでしょうか?
緊急事態宣言が発令されたことで日本の音楽業界は大打撃を受けました。その後、売上は緊急事態宣言解除後すぐにリバウンドしたが、ストリーミングサービスの貢献は無視できません。ワーナーミュージック・ジャパンはデジタルに注力する企業として、競合を圧倒するパフォーマンスを今年は発揮したいです。
➖日本におけるストリーミング収入は2019年に比べて33.8%増加しました。ここから先5年でストリーミングサービスはCDなどのフィジカルな媒体に変わって日本の音楽業界を占有すると思いますか?
ここ数年で日本国内でのストリーミング収入が急上昇するという予測をもとにワーナーミュージック・ジャパンは組織の再編を行いました。ストリーミングがフィジカルな媒体にとって変わることはあるかもしれないが、その一方でフィジカルな媒体が完全になくなることはないでしょう。一定の需要は必ずあるはずです。日本人のコレクター気質はフィジカル媒体のマーケットをある程度支え続けるでしょう。
➖ワーナーミュージック・ジャパンは具体的にどのようにデジタルに注力してきたのですか?
数年前、我々はビジネス構造の再構築を行ってきました。そこでは、フィジカルなディストリビューションを外注することを決定しました。今日、ワーナーミュージック・ジャパンの社員の80%はデジタルマーケティングプランナーやエンジニアなどといったデジタルに長けている人材です。
ちなみにこの人たちは、音楽業界の外から雇用しました。オンライン広告の会社やテレビ局、そしてストリーミングサービスに関わってきた人です。これによってワーナーミュージック・ジャパンの社風はガラッと変わりました。
➖ソニー・ミュージックは自社のストリーミングサービス”mora quzlitas”をローンチしました。ワーナーミュージック・ジャパンはストリーミングサービスをローンチする予定などはないのですか?
我々は違ったアプローチを採用しています。我々はADA Japnをローンチしました。これは、レパートリー所有者の音楽を国内のDSP (Digital Service Provider=デジタル音楽配信業者)へ提供するのをサポートするサービです。このアプローチは、他のマーケットを見ていると分かる通り、自分たちでストリーミングを設立するより効率的であることがわかります。
➖このデジタルへのシフトによって具体的にどのような結果が出ましたか?
我々は、デジタルに強く、ファンとオンラインで交流しストリーミングチャートでトップに食い込む実力があるアーティストを探しています。
あいみょん (ワーナーミュージック・ジャパン所属) はその良い例です。彼女は、日本で一番ストリーミング再生されているアーティストの一人です。彼女の成功は圧倒的で、オンラインで活動を始めたアーティストとして初めて紅白に出場しました。
➖ワーナーミュージック・ジャパンはさらに新しいアーバンレーベル+809を設立しましたが、これはワーナーミュージック・ジャパンのデジタル戦略をどのように担っているのでしょうか?
ストリーミングサービスを利用するファンはアーバンインフルエンスがあるアーティストに興味を持っている。そして、彼らはこのような音楽使ってダンス動画などのUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)を多く作成しています。つまり、+809の設立はデジタルマーケティングと強いつながりを持っているということです。デジタル戦略の一部として+809はこれからどんどんオンラインで影響力のあるアーティストと契約していきます。
➖ワーナーにとって日本はこれまで比較的小さいマーケットでした。それは近年変化しつつあるのでしょうか?
はい、このデジタルファーストな戦略は日本における我々のマーケットシェアを増加させてくれると思います。我々のデジタルサービスによる売り上げは、オフラインのものに比べて3倍に匹敵します。つまり、音楽業界でデジタル化が進めば進むほど我々のシェアは上がっていくのです。
➖日本の音楽ファンは徐々にインターナショナルな音楽を聴くようになっていると聞きました。
はい、しかしあなたが思っているのとは少し違うようにです。今まで、インターナショナルな音楽といえばアメリカやイギリスの音楽のことを指しました。しかし、今ではK-POPもインターナショナルミュージックです。我々は、K-POPグループTWICEと大きな成功を収めました。彼女たちのアルバム「&TWICE」は去年日本のアルバムチャートで1位に輝きました。ワーナーはBruno MarsやEd Sheeranなどのいわゆるインターナショナル音楽で成功を納めていますが、これからはK-POPにも目を向けていく必要があります。
➖+809をローンチする時、あなたは日本人アーティストの世界進出を示唆しました。これはワーナーミュージック・ジャパンにとってどれくらいの重要度で、どのようなステップで達成していく予定ですか?
日本人アーティストの世界進出は今まで容易なことではありませんでした。言語と文化の障壁が高いからです。しかし、その障壁は近年崩れつつあります。そしてそれを牽引するのがストリーミングサービスです。
ワーナーは、国境を超えたアーティストのコラボレーションに積極的です。そして、近年同じワーナー内のレーベルから日本人アーティストに対する関心が多く寄せられています。世界は変わっているのです。
参照リンク:https://www.musicbusinessworldwide.com/breaking-japanese-artists-internationally-has-never-been-easy-but-barriers-are-crumbling/