2021.04.07
Pick up News

【音楽ライブ配信MUSER】アーティストがSpotifyで年間5万ドルを稼ぐ確率は0.2%|その統計を紐解く

MUSERが注目する世界の音楽ニュース

ライブを見ながら、アーティストを応援するための配信プラットフォーム「MUSER」が注目する世界の音楽ニュース。今回は世界の音楽ニュースを配信するサイトMusic Business Worldwide(以下、MBW)が報じた「Spotifyに登録しているアーティストのうち、年間5万ドルを稼いでいるのはわずか0.2%」という記事を紹介したい。

この0.2%の数字はどのくらい悪いものなのか・・・?



昨日(3月18日)、MBWは、2020年に13,400人のアーティストがSpotifyからのロイヤリティ(レコード+出版)でそれぞれ5万ドル以上を生み出したと報じた。

この“13,400人”という数字は、Spotifyの新しいウェブサイト「Loud & Clear」で明らかにされたものであり、2017年に見られたデータの約2倍であることがわかった。

過去データから成長の軌跡をたどると、Spotifyから5万ドルも収入を得るアーティストの数は2023年には約25,000人、さらに5年後の2026年には約50,000人にまで登る予測がつく。

ツイッターではこの記事に対しての反応が大きく、数分後には怒りのツイートが溢れ、記事を公開したMBW自身もSpotifyの誤った情報を伝える「信憑性のある」代弁者だと非難されたほどだ。

我々MBWは、常に音楽業界の権利を主張している。

MBWの愛読者ならお判りの通りそれは:アメリカのソングライターの給料アップをSpotifyに訴えたり、Spotifyがポッドキャストへの投資に固執していることをアーティストに警告したり、Spotifyの年間損失の深掘り、Spotifyの元出版部長がクリエイターにもっとお金を払うべき理由を世界に向けて発信する支援、Spotifyが間抜けな “Secret Genius “を静かに削除したことを暴露すること、SpotifyがAI技術を使ってあなたの感情を読むことで操作する計画を明らかにすること、Spotifyのムード・プレイリストによく現れるスキャンダラスな「偽のアーティスト」についてSpotifyを真っ向から非難したり(この件でSpotifyと公に喧嘩したことも)、Spotifyの支払いシステムの見直しを訴える人たちの声を公に届けたり、SpotifyのARPUの数字が落ちていく様を執拗に監視したり、と多岐にわたる。

私たちMBWにただ言えるのは、ダニエル・エクに餌付けされていることは紛れもない事実である。


先月、ダニエル・エクは、Spotifyのプラットフォームで作品を公開しているクリエイターが、現在800万人以上いることを明らかにした。

以前MBWの記事でも公開したが、彼の「クリエイター」という言葉にはポッドキャスターとレコーディング・アーティストの両方を意図的にカバーしている節がある。Spotifyが公開しているポッドキャストの数をもとに計算すると、現在Spotifyに音楽を提供しているアーティストの数を700万人程度と推定できる。

つまり、700万人のアーティストのうち、年間5万ドル以上の収入を得ているアーティストは13,400人。つまり、Spotifyに登録しているアーティストのうち、年間5万ドルを稼いでいるのはわずか0.2%ということになる(この数字は、米国の年間賃金の中央値とほぼ同じ)。

しかし、この0.2%という数字は、実際にはどのくらい悪いのか?

参考になる事例が国際サッカー連盟(FIFA)である。

彼らのビッグカウント調査によると、2006年の世界の団体レベルのサッカー人口は2億6,500万人で、6年間で2,300万人増加している。

つまり15年後の現在、世界のサッカー人口は3億2,000万人を超えていると考えて良いだろう。

ここでいうサッカー選手とは、各試合において審判、コーナーフラッグ、立派なゴール、ネット、ほかにやるべき事でもありそうに気だるげにタッチラインに立っている献身的なパートナーが全部揃っている、いわゆる協会認定のサッカー選手のことである。

世界中でどれだけのサッカー選手がプロとして、つまり実際にお金をもらってプレーしているのか?

2019年のFIFAの調査によると、187カ国で128,983人だそうだ。プロの数が最も多い国はメキシコ、次いでブラジル、そしてイングランド。FIFAの調査によると、現在、約3億2千万人が「サッカー選手」として自認する者がいる。

その傍らで、実際にプロのサッカー選手として報酬を得ている人は、世界中で128,983人。

つまり、現状から鑑みるにサッカー選手が報酬を得られる可能性は、約0.04%ということになる。

これは今日、アーティストがSpotifyで年間5万ドル以上の収入を得る可能性0.2%のほんの1/5である。

また、アーティストが1万ドル以上の収入を得る可能性0.6%のほんのわずか1/15である。

実は、自分が「サッカー選手」であることを人に伝えるのと同じように、今日、「レコーディング・アーティスト」を名乗ることに、(フリーソフトとTuneCoreアカウント以外に)特にこれといった障壁はない。

あなたの音楽がSpotifyで1年間に5万ドル近い収益を上げられるとも限らないなかで確かなのは、ストリーミングによって、録音された音楽のみから「プロ」レベルの収益を得ることが、これまで以上に競争力のある世界になったということだ。ほぼ毎秒のように新しい曲がSpotifyでヒットしているという事実がこれらを物語っている。

例えば、アーティストはSpotifyの月間リスナー数が1,000人を超えたときに、一皮むけたと思うだろう。しかし、Spotify発のウェブサイト「Loud & Clear」を見ると、120万人のアーティストがすでにそこで戦っていることがわかる。

また、アーティストは当然のことながら、Spotifyの月間リスナー数が10万人になると、大きな人気を獲得したと感じるかもしれない。しかし「Loud & Clear」は、44,000人のアーティストがすでにそこにいることを示している。

サッカーと同様に、音楽を作り、レコードしたものをリリースするということは、とんでもない数のサポーターを要することなのがわかる。

しかし、それを成しえたと言ってキャリアにはならない。加えて、それを成しえた人が特別な存在となって人生安泰となるわけでもない。

事実、Spotifyの新しい統計が示すように、アーティストの世界はこの過激な競争社会に反して手の内に収まるものが余りに少ない。

私たちは、ほんの少しの人気しかない自称アーティストの大群が、その収益で車を買えない事に対してピッチフォークを振り回している時代に生きているのだ。

正直なところ、Spotifyが世に送り出した統計データについては、有益で健全な議論はたくさんある。

そのうちのいくつかを紹介する。

■ Spotifyのロイヤリティ支払いのより公平な分配は、ユーザー中心のモデルや他の代替手段で達成できるのではないか?

■Spotifyはアーティストに直接お金を払っていない。この14,300人のアーティストが生み出している5万ドルの支払いのうち、どれだけがディストリビューター、レーベル、パブリッシャー、PROに保管されているのか?はたして公平な割合で報酬は支払われているのか?

■Spotifyは世界中で価格を上げて、より大きなロイヤリティポットを作るべきなのか?

■Spotifyは昨年、音楽業界におよそ50億ドルを支払ったと発表している。しかし、パブリッシャー(およびソングライター)の収入は、レーベル(およびアーティスト)に比べてはるかに少ない。Spotifyには、パブリッシャーやソングライターにもっとお金を払うだけの資金がないのか。それとも、単にビジネスのやり方が間違っているのか。

■その点、Spotifyは米国での訴訟で、ソングライターに支払うお金をドッキングさせようとしているのは一体どういうことなのか?

■ニューヨーク証券取引所でのSpotifyの時価総額が上昇したにもかかわらず、そのプラットフォームを実現しているクリエイターへのその対価は予定されていない。それを検討することさえ、本当に不可能なのか?

■Spotifyが自社のプレイリストを操作することは、特定の契約や特定のジャンルのアーティストにとって、反競争的な収益ブロックとして機能するのか?

MBWはこれらの問題が浮上した際には、その都度取り上げていきたいと考えている。

しかしこの業界では、すべての音楽、すべてのアーティストの作品が同じ価値を持っているかのように装うことはできない。それは不誠実なだけでなく、残酷なことだ。

つまり、ポピュラーなミュージシャン、ポピュラーになる可能性のあるミュージシャン、そして”趣味の人”を単純に区別すること。そして、後者のカテゴリーが圧倒的に人口の多いカテゴリーであることを受け入れること。

それは確かに不快なプロセスだが、その自覚があって初めて、誰がストリーミングからより多くのお金を得る「資格」があるのかないのか、を視覚化できる。

この件については、読者の皆さんの間でいくらでも議論の余地がある。

あるいはまた怒りの矛先として億万長者のジャック・ドーシーをより豊かにしてくれるTwitterなんかはいかがだろうか。


参照リンク:
https://www.musicbusinessworldwide.com/artists-have-a-0-2-chance-of-generating-50k-a-year-on-spotify-lets-kick-this-stat-around/