2021.05.12
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【音楽ライブ配信MUSER】SoundCloud、音楽業界での立ち回りの上手さの秘訣とは

MUSERが注目する世界の音楽ニュース

ライブを見ながら、アーティストを応援するための配信プラットフォーム「MUSER」が注目する世界の音楽ニュース。

今回は、今年1月にSoundCloudのCEOへと就任したマイケル・ワイズマンへのインタビューと共に、彼が4月に開始した「ファン・パワード・ロイヤリティ(以下、FPR)」についてのニュースをご紹介!


音楽業界に通じている者であれば、こんな議題はおなじみだろう。

今日の音楽業界において1つだけ変えるとしたら、何を変えたいか。
そしてその理由は?

ここでSoundCloudのCEOであるマイケル・ワイズマンは、これまでに聞いたことのないような答えを返してきた。


「何一つとして変えないだろう(”I wouldn’t change a thing.”)。」 
 

音楽業界の未来を、また彼が考える会社の音楽業界での役割の両方に対して、希望を見出しているからである。SoundCloudのモデルを理解すればするほど、彼の意見がいかに理にかなっているかがわかる。

SoundCloudは、類まれにみる2つのビジネスを同時並行で行っている。

ひとつは、Spotifyのような消費者向けストリーミング音楽サービス。そして相関関係にあるSoundCloud Go(またはGo+)の有料サブスクリプションサービスだ。Spotifyよりもはるかに大規模で多様な音楽ライブラリ(SoundCloud上のトラック数は2億5000万曲以上)を抱えているにもかかわらず、他社ストリーミングサービスやサブスクリプションサービスと比較して目立った差別化は図らない。

SoundCloudの差別化は、第2のビジネスであるアーティスト向けのビジネスである。

SoundCloudは現在、約10万人のアーティストと、ディストリビュータとして関係を保っている。彼らの音楽をSoundCloud上と他のライバルサービス(Spotify、Tidal、Apple Musicなど)の両方にアップロードし、ロイヤリティを集めて支払う事業である。

SoundCloudの “クリエイター “ビジネスは、独立系アーティストの市場を拡張し、機械創出につながる魅力がある。

さらに、2019年にRepostを約1,500万ドルで買収したおかげで10万人のアーティストの一部に、「Repost By SoundCloud」と「Repost Select」の階層を通じて追加サービスを提供できている。これらの追加サービスには、プレイリストの売り込み、リリース計画、アーティストのマーケティング、さらには資金調達もカバーしている。

考えてみれば、SoundCloudはストリーミングサービスであり、ユーザー生成コンテンツプラットフォーム(UGCP)なのだ。音楽配信者であり、そして、あえて言い変えれば、レコード会社のようなものだ。

しかし、今のところSoundCloudのアーティストに対するサービス事業は向上の余地がある。

具体的にはSoundCloud 2019年の会計報告によると、「リスナー」事業(音楽を聴いている人からの広告やサブスクリプション)は年間9950万ユーロを創出している一方で、クリエイター事業はその半分程度の4810万ユーロだ。

以上を踏まえたとしてもSoundCloudのクリエイター事業が独立系アーティストの市場をより拡大させる潜在力は非常に魅力的だ。昨年、独立系アーティストの録音による収入は、世界全体で12億ドルと推定されている。この統計は前年比34%増となっている。

マイケル・ワイズマンは、1月にSoundCloudのCEOへと昇格して以来、業界にかなりのインパクトを与えてきた。

ワイズマンは、CEO就任1ヵ月で、音楽業界の大御所であるトロイ・カーターをSoundCloudの取締役に任命した。

この決断はワイズマンの頭角が現れた鋭い一手だと思うのも束の間、次の一手に業界人は驚きを隠せなかった。
4月、SoundCloudは「ファン・パワード・ロイヤリティ(以下、FPR)」と呼ばれるものを開始したのだ。

この動向は、SoundCloudに音楽をアップロードすることで収益化している約10万人の独立系アーティストに影響を与えるものだ。毎月ごとの再生回数が直接ロイヤリティに繋がるのだ(SpotifyやApple Musicなどのサービスで採用されている「1つの大きなポット」モデルとは対照的といえる)。

つまり、一部の独立系アーティストにとっては、従来のロイヤルティ支払い方法よりも遥かに多くの収入を得られる可能性を秘めている。

今月初め、ワイズマンはワーナーミュージック・グループからエライア・セトンを引き抜き、再び業界に衝撃を与えた。セトンは、ワーナーミュージック・グループの最上級幹部の一人であり、ワーナーミュージック・グループのグローバル独立系レーベル/アーティストのボスとしての役割を捨て、ワイズマンの直属の部下となるSoundCloudの社長に就任した。

本記事では、CEO就任して以来のワイズマン初インタビューで語った、これからのSoundCloudのビジョンと、自社が抱える「クリエイター」たちについてのダイアログを記す。



(以下、インタビューでのワイズマン氏の言葉を引用)



「ファン・パワード・ロイヤリティ(以下、FPR)」プロジェクトの立ち上げに際して、業界では激しい議論が交わされていましたが、なぜ始動しようと思ったのですか?

ここでは“なぜか”が非常に大事です。

昨年、私たちはこのアイデアについて、アーティストと消費者の両方にインタビューを行いました。誰もがストリーミングはすでにFPRだと思っています。単純にファンに音楽の仕組みを理解してもらう事が、私たちには必要だったのです。

FPRは、”プール “モデルよりも公平で透明性が高いという結論に至りました。

私たちは、約10万人の独立系アーティストと直接仕事をすることで、本当に変化を起こせるだけの十分なコンテンツを持っていることを自覚しています。ファンは準備ができているし、アーティストコミュニティはSoundCloud上でムーブメントを起こせるだけの規模へと成長しました。あとは前進するだけです。

FPRは、”プール “モデルよりも公平性と透明性に優れています。支払い関係がシンプルで直接的なのです。どうやってファンの皆さんに関わっていこうか?どうすればファンの皆さんに関心を持ってもらえるか?このような積極的な変化を求める未来が、市場でゆっくりと構築されていくことを期待しています。


今日、独立系アーティストディストリビューターにとって*USPSの集荷・配送がほぼ不可能となってしまった今、消費者さながらアーティストにも価値を提供するストリーミングプラットフォームとは本来相反する要素を共生させた、あまり例をみないプラットフォームになりそうですね。

※USPS=米郵便公社。コロナ禍でドナルド・トランプ大統領がUSPSへの資金支援を拒否したことにより財政難が起こり、配送サービス自体に影響が及んだ。

そのとおりです。これは、SoundCloudのビジョンの一部でもあります。

私たちは自分たちのことを、消費者とアーティストの両方と直接的な関係を持つ、音楽エンターテインメント・ビジネスだと捉えています。そしてなによりも大事なのはこの2つの間の関係に私たちは焦点を当てています。このようなアプローチをとっているストリーミングサービスは、他にみないでしょう。


Spotifyは数年前に直接配信を試みましたが撤退しました。今や年間10億ドル以上のビジネスになるほど爆発的に普及しているDIYにも関わらず、他ストリーミングサービスがクリエイターと直接的な関係を望まない現状はどういうことなのでしょうか?

これはSoundCloudにとって大きなチャンスです。決定的な違いは私たちのコアがユーザー生成型のプラットフォームであるということです。インディペンデントミュージシャン、プロデューサー、DJが直接アップロードしたコンテンツが流れてくるというのは、本来はレーベルやその他の権利保持者の領域外にあるからです。

Amazon、Apple、Spotify、Deezerなどが同じようなカタログモデルで運営されている中で、我々のモデルは(DIYアーティストに事関して)本質的な優位にたっています。

私たちは、ライセンスコンテンツの面などで私たちのモデルが保持されるように、関わるすべての関係者と強く結託しています。しかし、私たちのモデルは、Amazon、Apple、Spotify、Deezerのいずれもが事実上同様のカタログモデルで運営されているという点で、唯一性という利点があります。


他にも、他サービスとの違いはありますか?

ひとつはっきりさせておきたいのは、私たちは今後、より音楽ビジネスに特化していきたいということです。音楽業界により深く入り込みたいと思っています。

同業他社に限った話ではないですが、特にストリーミングサービスは音楽からトークやポッドキャストなどの、音楽以外のものに移行しようとしています。音楽をやっているようでいて、核は音楽ビジネスからは離れているのです。

私たちは物事を違った角度から見ています。私たちは、音楽は本当にエキサイティングなものだと信じています。

より多くのアーティストがより多くの音楽をリリースし、ファンがアーティストと今までにない方法で交わり、私たちは新しい消費者モデルの普及を目前にしています。そして、SoundCloudはそのすべての中心にあるのです。


SoundCloudのサービスモデルの上位層には、約10万人のアクティブアーティストが参加しているそうですね。非常に多いですが、全景を見ればtunecoreやcd babyは、それぞれ約100万人のアーティストが配信プラットフォームを利用している現状を前に見劣りしそうですが、目標としている数字はありますか?

私たちは、規模と提供するサービスの間のスイートスポットを見つけようとしています。

技術的に当社が直接ライセンスを持つ100万~200万人のアーティストを支えることは可能なのか。答えは、できる、です。当社は、リポスト事業や、クオリティを重視するDSPとの貴重なパートナーシップを通じて、できると言い切る自信があります。

同時に、アーティストが独自の配信からファンの支持を得て、実際に規模を拡大していく中で、アーティストにはまだテクノロジーではどうにもできないものがある。A&R、プロダクションスキル、ソングライティングのサポート、ソーシャルメディア、PR、ラジオ出演などです。

私たちはそのことをよく理解しています。だからこそ、どれだけの規模をサポートできるか、どれだけのアーティストのキャリアアップを真にサポートできるか、そのバランスを取ることが大切なのです。

新人アーティストの発掘実績や、クリエイター向けサービスの拡充など、アーティストと一緒にビジネスチャンスを生み出すための基盤はいつだって整っています。


DIYミュージックの数は爆発的に増えています。SoundCloudでは、2020年に月間新規アップロード者数が前年比60%増となりました。この統計をどうとらえますか?

ミュージシャンはツアーから離れ、自宅用のプロダクション・スイートやSpliceなどのツール、プラグインやDAW(Desktop Audio Workstations)、デジタル楽器などを利用するようになりました。

しかし、現在の市場構造ではこのトレンドに対応することはできない。これまで以上に多くのアーティストが音楽をリリースし、アーティストが配信した楽曲のアップロード数は、レーベルが配信した楽曲の約9倍にもなる。これは、音楽の消費者側(オンラインで音楽を聴き、音楽にお金を払う人の数)よりも速いペースで増加しており、バランスが崩れています。

私の考えでは、この健全なエコシステムを維持するためには、消費者モデルを変える必要があると思います。月10ドルの食べ放題モデルから、ファンとの直接取引へと進化させる必要があるのです。

このような不均衡の結果、現在音楽を配信しているアーティストの数が増えれば増えるほど、ストリーミング収入のパイの取り分が少なくなる可能性があります。同時に、Music Business Worldwide(以下、MBW)が書いているように、ストリーミングのARPU(Average Revenue per User:ユーザー1人りあたりの平均売上金額)は下がってきています。

改めて言いますが、この健全なエコシステムを維持するためには消費者モデルを変える必要があります。それは、メタバースで音楽を収益化することであったり、従来レーベルが手を付けてこなかった音楽バリューチェーンの他の部分で収益化することであったりと、さまざまな収益化の方法をさします。


中国のオンライン音楽サービスでは、チップサービスが大きな役割を果たしています。文化的にアメリカやヨーロッパで流行ることはあるのでしょうか?

あったが、失ってしまいました。

少し思いを巡らせてみましょう。私が好きなアーティストに今すぐ100ドルをオンラインで使いたいと思っても、実際にはとても難しいのです。BandCampで検索することはできるが、Amazonのアカウント、Spotifyのアカウント、Appleのアカウント、SoundCloudのアカウントを全部契約するなんてことは誰もしないでしょう。

つまり、本当のファンであれば今すぐに使える金額にはある種の上限が設けられているのです。これに違和感を感じます。だからこそ、NFTのようなものが普及したとも言えます。ファンには「アーティストにお金を使いたい」という気持ちがあるのです。ただ、それを可能にするような取引形態が用意されていないのが現実です。

似たような取引形態問題は他の媒体でも存在します。ゲーム界隈では中国の一部のオンラインサービスを筆頭に、上述した問題の糸口はうまく確立されました。私たちはそのような事例をもとにさらに推進する必要があります。

私たちは、FPRが真の意味でファンとミュージシャンの直接的な関係を築くための足がかりとなることを願っています。


レコードやチケット以外では、確かにアーティストに100ドルを使うのは難しいですよね。

本当にそうです。それにこの2つは物理的なものです。私たちは、ファンとアーティストの間にはデジタルな関係を作らなければならないと考えています。それがアーティストのリリースを買うことであったり、バッジや絵文字などでファンであることをアピールしたり、ゲーム業界で見られるようなアーティストとファンが交流できるようなデジタル上のさまざまなモデルが必要なのです。

そうなると、広告やサブスクリプションだけでなく、チップやバッジなど、ファンが費やせる価格に幅を持たせるために、これらすべての要素が必要になるのです。

今、音楽ストリーミングの価格に変動性がほとんどないのは問題なのです。


SoundCloudで、アーティストが直接購読できるようにしたいと考えていますか?

理想的ではダイレクトサブスクリプションは非常に理にかなっているが、現実的に一人のアーティストが顧客を維持できるだけの音楽をリリースするのは困難です。

しかし、アーティストの活動の中には、ファンが求めているものがリリース以外にもたくさんあります。特に、より多くのアーティストが、単なるミュージシャンやアーティストから、インフルエンサーとして一線を越え始めているのがわかります。

FPRは、アーティストとファンが今までとは一風変わった関係性を目指せるようになる仕組みなのです。

ファンがアーティストから音楽を買いに来るだけでなく、アーティスト側もファンと直接関わることを念頭に置くようになるのです。

Patreon、Clubhouse、Twitchなど、音楽とは直接関係のない、しかしたしかに音楽に隣接したものが、そのようなモデルを開発し始めています。私たちは、音楽はもっとこの方向に進むべきだと信じています。


このようなDIYアーティストのリリースの爆発的な増加と、その中でのSoundCloudの役割に関連して、他にどのようなトレンドに注目したらよいでしょうか?

マーケティングやプロモーションの方法が変わってきていて、洗練された新しいモデルがたくさん出てきていると思います。

今、世の中に出回っているデータの量は、多くのミュージシャンにとっては多すぎるのです。単に「データにアクセスできる」というだけではなく、実際にそれをどう使うかを知る必要があります。雑音が多く、指示がほとんどない状態です。

SoundCloudは欧米向けのサービスだと思われていますが、中南米や中東にも多くのオーディエンスがいます。私たちがやっていることにグローバル性が帯びることは非常に喜ばしいことです。

これらの地域はSoundCloudからの投資に適しているが、それだけなくこれらの市場でパートナーシップを築くチャンスもたくさんあるのです。


SIRIUSXMからの7500万ドルの投資を受け、資金に困っているなんて事は重々承知ですが、もしもの話、指を鳴らすだけであらゆる企業を買収できる程の無限大な資金があるとしたら何をしますか?

当然SoundCloudですね!あらゆる意味でです。私たちがやっているように、UGCの要素やファンとの直接対話の要素を持つ消費者向けのビジネスをやります。

また、インディペンデント・アーティストのキャリアをサポートし成長させるビジネスも、ディストリビューターやインディペンデント・レーベルを経由しているかどうかにかかわらず、絶対に必要です。

アーティストないしは才能を中心にビジネスを展開するという考え方は、私たちにとって核となる部分なのです。そして、どちらの場合にも絶好の機会がそこら中にころがっています。


もし、魔法の杖を手に入れ、音楽業界を1点だけ杖の一振りで変えられるとしたらそれは何ですか?

私は何一つとして変えないでしょう。私たちは今、適切な時期に適切な場所にいます。

私たちがどうやって生き延び、成長し続けるのかがとても楽しみです。音楽業界は、たしかに私たちが望む方向に向かっています。

引用:https://www.musicbusinessworldwide.com/michael-weissman-why-soundcloud-has-the-music-business-right-where-it-wants-it/