2021.05.19
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【音楽ライブ配信MUSER】Appleが初めて開示|Apple Musicの報酬。

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今回は、Appleが初めて開示したApple Musicの報酬と、それを批評するMusic Business Worldwide(以下、MBW)の見解を紹介!


4月16日金曜日、Apple Musicがアーティストやソングライターへの報酬を初めて開示し、物議を醸している − 関連して、Spotifyの同様の支払いについてもクレームの声が上がっている。

これらのクレームは、Appleが音楽業界・アーティストに向け送信した一通のEメールニュースレターから始まった。このニュースレターはMBW(Music Business Worldwide)により管理されており、本記事の下記に掲載している。

ニュースレターにてAppleは、直接Spotifyの名前を出してはいないものの、他メディアの報道によりおそらくそうであろうと示唆されている。

多くの報道はAppleの「当社の平均1再生レートは$0.01(約1円)だ」という衝撃発言に関連したタイトルをつけている。

Wall Street Journalは、Appleのニュースレターをいち早く報道し「Appleが発表した1再生=1ペニーの報酬は、Spotifyがストリーミング1回につき著作者に支払っている額の約2倍である」と述べた。

しかし、この見解(他多くのマスコミが同様の報道をしている)は大いに注意すべきである:それは、1回の再生ごとに支払いを行っている主流ストリーミングサービスは厳密にはないからである。

実際にSpotifyやApple Musicに提供された楽曲への支払いは、全体的に以下の2ステップで精算されている:

  1. 配信側が、月の純収益の割当で共同管理の印税を一旦充てる。これはレーベルやアーティスト側が事前に賛同しているパーセンテージを基に計算される。
  2. この共同管理された印税は、ストリーミング数のマーケットシェアに基づいて、それぞれのレーベルと所属アーティストに分配される。

例)仮にUniversal Music Groupが1ヶ月間のApple Musicでの視聴に対し40%の利益を請求し、Universal Music Groupが35%の純収入シェアに賛同した場合、Apple MusicはUniversal Music Groupに純収入52%中の32%を月々支払うという事になる。

このような支払いが1回の再生ごとに行われるとすると、とても厄介な事が起こる。それは、オーディエンスエンゲージメントが高いプラットフォームより少ないプラットフォームの方が、アーティストやレーベルに対し気前の良いように映ってしまうという事実だ。

言い換えると、例えばあるファンが1つのサービスで楽曲を多く聞くと1回の再生に当たる報酬は減少し、逆に少なく聞く方が1再生あたりの単価が上昇してしまうという訳だ。

ここでもう一度Appleの発言に目を向けてみよう。

下記にAppleのEメール全文が掲載されている。

MBWは、誤った情報を断ち切りApple側の主張を明確にするためにも、独自の見解も付け足している。

ここで一つ興味深いのが、Appleは自らのプラットフォームをSound Cloudに続く「ユーザー目線・ファン中心の」報酬モデルを倣うことも考えているとしながらも、そうすると報酬配分が限られてしまい、多くのアーティストに悪影響を及ぼしてしまうことを懸念している点だ。

さらに、Appleは全てのレコードレーベルに対し、同じレート(52%)で報酬シェアを行っているのに対し、他のストリーミングサービス(Spotifyを示唆する)では、レーベルごとに異なるレートで支払いを行い、インディーズよりもメジャーアーティストが多く報酬を支払われるような構造になっていると主張する。

再度になるが、Appleのレター全文とMBWの見解を照らし合わせながら考えて読んでみて欲しい。



(以下Appleによるレター全文:パート1)

今回のアップデートでは、クリエイターがApple Musicでどのようにして印税を稼ぎやすくなったのかを紹介する。

当社は音楽の価値を信じ、クリエイター達が楽曲に対する報酬を平等に得られる事を望む。2003年にiTunes Storeをローンチして以来、アーティストやソングライターが音楽で生計を立てていけるよう、サポートしてきた。現在ストリーミング料金に対する議論が多く出ている中で、当社の価値を共有する事が重要だと考えた。当社は、全てのクリエイターに同じレートで報酬を支払い、全ての楽曲が同じ価値を持ち、フィーチャーされる為にクリエイターが支払いを強いられるべきではないと考える。

当社は全てのレーベルに対し52%のヘッドラインレートを支払っている。

他のサービスが独立系レーベルに対し、メジャーレーベルより低額のレートで報酬を支払っているのに対し、当社は全てのレーベルに同額のヘッドラインレートで支払っている。これを承知のアーティスト達は、当社のストリーミングサービスにて自由に音楽を配信できる。メジャーレーベルであれ独立系であれ、我々は全ての音楽の価値を重んじている。

我々は全てのソングライターに対しても同じヘッドラインレートで支払いを行っている。

ソングライターなしではレコーディングは成り立たない。だからこそ、我々は各国で全ての出版社、ライセンサーに対し同じヘッドラインレートで支払いを行ってきた。また、出版オペレーションに多額を費やしソングライター達がいち早く収入を得られるようなシステム作りをしてきた。




MBWの考察:ここで1つ明らかにされているのが、Apple Musicが全てのレコード著作権者(「全てのレーベル」)に対し52%の純収入シェアを支払っているという事実だ。

これはSpotifyが現在メジャーレーベルに支払っているレートと全く同じである。Spotifyは2017年にヘッドラインレートを55%から52%に引き下げる交渉をしており、Apple Musicも同年に同じ交渉ラウンドをしたという事になる。

(出版社やソングライターに対する支払いは、この52%のレートに10〜12%上乗せで支払われるという。現在Spotifyはこのレートをアメリカ国内全体で引き上げるべきだと抗議しており、Amazon、Google、SiriusXmも同様のクレームを申し立てている。Apple Musicはというと、この引き上げには後ろ向きである。)

上記のレターの部分を、MBWはこのように理解する:Appleの1番の主張は、他の主流ストリーミングサービスがメジャーレーベルであれ独立レーベルであれ、一律の純収入レートを提示していない、と言う点である。

例えばSpotifyで言えば、契約上の理由、また割引などにより、インディーズのアーティストがヘッドラインレートの52%よりも低いエフェクティブレートで支払われているといったシチュエーションがある。



(以下Appleによるレター全文:パート2)

当社の平均レートは1回の再生につき$0.01(1.08円)である。

ストリーミングサービスからの報酬は基本的に再生シェア数で計算されるが、当社は再生1回ごとの価値があると考える。再生1回あたりの単価はサブスクリプションプランや国によっても変動するが、Apple Musicの個人プランでの2020年の平均は$0.01となった。

当社はフィーチャーをする代わりに報酬レートを減額する事はしない

Apple Musicのグローバル流行先駆けチームは、彼らの厳選により30,000ものエディトリアルプレイリストを作成する。その際、彼らはメリットベースに楽曲を選んでおり、フィーチャーをする代わりに報酬レートを低額する事はしない。これはApple Music内でのパーソナルプレイリストやおすすめ機能を使用する際でも同様である。



MBWの考察:記事冒頭にもいかに「再生1回あたり」のレートが紛らわしいかを説明したが、他にも引っかかる箇所がいくつかある。

第一に:Appleは「個人プラン」での再生1回に対する報酬が平均$0.01と表記している – これは他の割引プラン($14.99/月のファミリープラン、Apple内のサービスを複数利用できるApple Oneプラン、$4.99/月の学生プラン)を差し引いた計算である事を意味する。

第二に:Appleはレーベル、出版社「共に」1回の再生につき$0.01のレートで報酬を支払っていると述べている部分も複雑だ。レターの最初に明記されている通り、52%のヘッドラインレートはレーベルとレコードされた楽曲にしか当てていない点に注意してほしい。
そして、「当社はフィーチャーをする代わりに報酬レートを減額する事はしない」という文章から、Spotifyの「ディスカバリーモード」を敵視している事が読み取れる。ディスカバリーモードでは、AutoplayやSpotify Radioを通してトラックがフィーチャーされる事と引き換えに、アーティストやレーベルが報酬レートを下げる事に同意している。

この点に関しては、Apple側に賛同する会社もいる。先月、世界でも有数のインディーズレーベルが複数、業界団体、IMPALAの10ポイントプランに署名をした。IMPALAは、商業的利益の為フィーチャーなどの機能に特権を付ける事に対し批難し、「これは賄賂のようなものであり、クリエイター達の育成や機会を妨げるような構造だ」とコメントしている。



(以下Appleによるレター全文:パート3)

これらの価値を重要視した結果、2020年度、我々は前年に比べ100万人以上多い500万人もの世界中のレコーディングアーティストに報酬を支払う事ができた。カタログのレコーディングや出版による報酬を年間$100万(約1億円)以上得る事のできたアーティストは、2017年以来120%以上増加しており、$5万(約500万円)以上を取得した者は2倍以上にもなる。

他社同様、当社は新しい報酬モデルを追求してきた。当社の分析によると、報酬のわずかな再配分でも多くのアーティストに影響が出てしまう事が分かった。そこで再生1回あたりのレートを置く事でそのような状況を改善する。そして最も重要なのが、従来のモデルは数少ないレーベルのみが好影響を受け、他多くのクリエイターにとっては透明性のない仕組みとなっている事だ。

Apple Musicでは、アーティスト・ソングライターにフォーカスを当て、彼らが音楽で生計を立てられるような新しく革新的な報酬方法を常に模索している。そして、全世界のファンの方々にも、無広告かつプライバシー保護を徹底したサービスを提供し、最高の音楽体験をお届けする。



MBWの考察:Appleが提示するこれらの数字は、Spotifyが近頃ホームページ上で発表したデータと比較できる – Spotifyは自社HPで、2017年から2020年にかけて$100万(約1億円)以上のカタログレコーディング・出版による報酬を得たレコーディングアーティストは90%増加したと明かした。

これを受けてAppleは、Spotifyより高いパーセンテージ(120%)の増加を主張している。

しかしながら、Apple Musicは2019年7月にEddy Cue氏が6千万人の(トライアルを含む)会員がいる事を発表して以来、そのアップデートを明らかにしていない。それに比べ、広告による中断なしを売りにし、プレミアム会員数を伸ばしているSpotifyは、2020年末にすでに1億5千万人を到達してる。

Eddy Cue氏が2019年に発表した時点では、全世界のApple Music会員は100万人/月ペースで上昇していた。同じペースであった場合、現在800〜850万人の会員がいる計算となる。

また、Appleは昨年、前年より100万人も多い、500万人以上のアーティストに報酬を支払ったと表記している。

各主流ストリーミングプラットフォームにて、DIYアーティストが次々と出てきている事は確かである。

参照記事:https://www.musicbusinessworldwide.com/apple-music-just-made-a-lot-of-claims-about-how-it-pays-artists-lets-take-a-closer-look-at-them/