2021.06.02

【音楽ライブ配信MUSER】なぜBelieveは株式公開するのか?6億ドルを何に使おうとしているのか?

MUSERが注目する世界の音楽ニュース

ライブを見ながら、アーティストを応援するための配信プラットフォーム「MUSER」が注目する世界の音楽ニュース。

今回はTuneCoreの親会社Believeのキーパーソン、現在も現役CEOとして事業を運営するDenis Ladegaillerie氏のインタビューを、Music Business Worldwide(以下、MBW)からご紹介。

BelieveがとったIPOという選択肢について、また今後のM&Aのターゲットについてを直撃。


前回のフランス音楽業界でのIPOは失敗に終わった。

2015年、Deezerはパリ・ユーロネクストにて上場。約4億ドルの調達を試みるが、大幅に目標を下回ってしまったのだ。

そして今、6年ぶりに音楽業界はパリ・ユーロネクストに着目している上、スマートマネーは今までに見たことのない展開が予想される。

5月10日早朝、TuneCoreのオーナーであり、インディーズ・アーティスト/レーベル・サービスのパワーハウスであるBelieveがパリIPOに大金を投じた。

Believeを「パワーハウス」と呼ぶのには、それなりの所以がある。
Believeは5月10日、2020年に約7億2800万ユーロのデジタル総収入を得たことを明らかにした。これは現在の為替レートで換算すると8億8000万ドル以上に相当する(この数字には、TuneCoreが収集し、インディーズアーティストに支払らった金額も含まれている。Believeの昨年の連結売上高は4億4100万ユーロ(約5億3500万ドル))。

ユーロネクストに会社の一部を上場させることで、Believeは5億ユーロ(6億ドル強)の資金調達を目指している。

BelieveのIPOは、重要な要素2つによって成り立っていることが推測される。

1)ゴールドマン・サックス社が2030年までに年間500億ドル以上の規模になると予測している、世界的な有料音楽ストリーミング市場の活況
2)世界的に成長しているインディペンデント部門でのBelieve社の盛り上がり(特にインディペンデント・アーティストとの協力関係)

Believe社は、50以上の市場で事業を展開しており、アーティストやレーベルの要望に応じて対応できる手札が豊富なのである。

それもすべて、2015年にBelieveが4,000万ドルで買収したDIYディストリビューターのTuneCoreから始まっている。

Believe社は、アーティストやレーベルとのよりハンズオンなサービス契約を提供するだけでなく、All Points、Naive、メタル専門のNuclear Blast(Believeが2018年に8桁価格で買収)など、インディーズレコード会社のファミリーを所有(または共同所有)している。

Believe社は2005年に元Vivendiの幹部であるDenis Ladegaillerie氏によって設立され、彼は現在も現役CEOとして事業を運営している。

MBWのインタビューでは、大手音楽会社に売却するのではなく、株式公開するという意向を示している。

以下は、Ladegaillerie氏が考える今後の課題と機会について伺ったインタビューである。



民間の投資を受けるのでも、大手音楽会社に株式を売却するのでもなく、IPOという選択肢をとったのはなぜですか?

一言で言えば、今から10年後、音楽市場のほとんどがデジタル化されていると思います。そして、世界がデジタル化されれば、私たちは競争上有利になるからです。

実際私たちはすでに、より多くのトップアーティストをメジャーから引っ張ってきている。いままでとは異なる契約や専門知識を求めているアーティストたちはチャンスに貪欲なのです。

また、テクノロジーの観点からも、私たちはアーティストやレーベルにより良いサービスを提供する自信があります。

このようなチャンスを目前にしながら、戦略的統合を行うことに疑問を感じたのです。

資金調達については、プライベートとパブリックの両方の選択肢を検討しました。私たちの考えでは、いくつかの理由から株式公開が良いと思ってます。

これまでもそうであったように、今後もM&Aは当社にとって重要な原動力となる事は間違いありません。音楽ビジネスは人と人とのつながりが非常に重要であり、すべての取引で必ずしも100%の株式を保有していなくとも、企業のオーナーとBelieve社が一体となって価値創造することはできるのです。このような取引を実現するには、プライベートよりもパブリックの方がはるかにやりやすいのです。

また、私たちのような成長段階の会社は、非公開のルートよりも公開したほうが独立性が保たれると思います。


Believe社が5月10日に発表した財務データによると、収益の68%が欧州で、18%がアジア太平洋およびアフリカで、アメリカではわずか14%です。今回提案されている5億ユーロ(約6億800万ドル)の資金調達で、米国での活動を広める予定はあるのでしょうか?

私たちは毎年、世界市場の成長を視野に入れています。現在の予測では、2028年までに世界最大の音楽市場となるのはアジア、つまり中国、インド、東南アジアを合わせた地域です。続いて、ヨーロッパ大陸と英国になるでしょう。そして、当のアメリカは第3位の市場にとどまると予測している。

つまり、米国よりも成長率が高く、将来的には米国よりも大きくなる潜在力もあり、現時点で投資コストが低い市場があるということなのです。

加えて上述した市場は当社の競争力が発揮されるデジタル市場という事もあり、私たちはヨーロッパ、アジア、そしてロシアやブラジルなどの新興地域への投資を続けるでしょう。

とはいえ、アメリカではM&Aのチャンスがたくさんあるのも事実です。私たちに、トップレーベルやその他の音楽会社から声がかかっています。彼らも同様に、「大手レコード会社から声がかかっているが、彼らはすでに自分のインプリントを持っている。同じようなプラットフォームを持っていて、かつ競合しない会社とやりたい」というのが本音である。

将来的には、今ヨーロッパで見受けられる現象とまったく同じことが、アメリカでも起こると予測できます。アメリカは現在、他の市場に比べて少し遅れているというのが正直な意見です。。


なぜ5億ユーロもの増資を目標とできたのですか?また、すべてが順調に進んだ場合、現在の評価額はどの程度になると予測できますか?

当社の目標は、年間約1億ユーロ(約1億2,000万ドル)のM&Aを行えるようになることです。それが5億ユーロという数字の根拠になっています。

私の直感では、短期的には年間1億ユーロよりも早いペースでM&Aを行うことになるでしょう。

過去6年間で18件の買収を行ってきましたが、現場のチームはどのようなターゲット層を買収すべきか、またはどう探すべきかを熟知しています。

評価額については、率直に言ってまだ時期尚早だと思います。今回のラウンドの規模はまだ決まっていません。その答えは、おそらく2~3週間後に募集価格を発表したときにわかるでしょう。


2021年のBelieve社のM&Aターゲットはどのようなものですか?

私たちが優先しているのは、以下2つのカテゴリーにまたがる第一線のレーベルです。

1)カタログを持つ伝統的なレーベルで、かつデジタルへの移行を加速させようとしている、いわゆるNuclear Blast系の企業

2)非常にデジタルに精通した新興レーベル。TikTokやSpotify、YouTubeを活用してアーティストを育成する方法を熟知し、それをうまく実行している企業

これは、単にカタログを買うのとは正反対の戦略です。私たちは、カタログにはあまり興味がありません。なぜなら、カタログは非常に高価だからです。にも拘わらずカタログには、第一線のレーベルの成長を加速させるほどの付加価値をつけることはできないのです。

私たちは一部の地域での小規模なディストリビューターや、アドテクノロジー、ミュージック・マーケティング・テクノロジーなどの技術にも注目しています。当社のチームとしてより潜在を引き出すことを視野にいれ買収したいと考えています。


公開企業としてのリスク要因は何だと思いますか?最近の業界の動向では、SoundCloudがより多くの配信サービスモデルを提供するようになったことが挙げられます。一方、Spotifyは、少し前にディストロキッドに投資し、その後、直接配信を開始したもののすでに閉鎖しています。また、アップルはUnitedMastersに投資したばかりです。DSPの活動に意見はありますか?


はい、もちろんです。

私は今でもDSPがディストリビューターとして役割を持てば本来の目的に相反すると信じています。

Spotifyと交渉するたびに、私たちはアーティストやレーベルにとって最高のレートを引き出そうとする一方で、Spotifyはそれを最小限に抑えようとします。

ですから、Spotifyが直接配信を行うことは長期的に考えてみても考えられませんし、論理的ではないですね。

とはいえ、Spotifyがアーティスト・ディスカバリーで行っていること、すなわち、Spotifyが我々よりアーティスト支援ができるようにマネタイズを強化する方針は、非常にスマートだと思います。これはSpotifyがどんどん進めていくべき施策ですし、非常に理にかなっていると思います。


Spotifyと大手レコード会社との間で行われている取引で、大手レコード会社が契約の一部としてプラットフォーム上のマーケティングクレジットを提供している場合、懸念はありませんか?

現状、非常に曖昧なところです。Spotifyとの契約にはマーケティング費用が含まれており、それをアーティストやレーベルに還元しています。これはMerlinや大手レコード会社でも同じやり方だと思います。

つまり、Spotifyからの支払いは、「合意されたロイヤリティ支払い率から、合意されたプラットフォーム上のマーケティング・クレジットを差し引いたもの」が混在しており、私自身の考えでは、これは健全ではありません。

現在、私たちがSpotifyや他のDSPと話し合っているのは、「次回の契約交渉では、この2つの要素を分けたい」ということです。

なぜなら、そのようなマーケティングをしていないレーベルは、レートの恩恵をしかと受けるべきだからです。一方、Spotifyでのマーケティングに投資している人は、その投資分を支払うべきです。

私にとっては、すべてを1つの契約にまとめてしまうよりも、その方がより健全で透明性のある管理方法だと思います。


Believe社は数多くの企業を買収してきましたが、中でもTuneCoreは際立っています。2015年に買収したTuneCoreは、一見すると不良資産のように見えましたが、今では業界で最も急成長しているDIYの中心的存在になっていますね。


私たちはM&Aに対してかなり規律を守ってきたので、大型の買収はすべて成功しています。

Nuclear Blastはその良い例で、2年前は70%フィジカルビジネスでしたが、現在は60%がデジタルビジネスとなっています。

TuneCoreの買収は大成功でした。なぜなら、私たちは誰よりも早くこの市場の可能性を見抜いていたからです。当社がTuneCoreを買収したとき、すべてのメジャー企業がTuneCoreに注目し、「これは面白くない」と言っていました。「いらない」と。

買収した時のTuneCoreは、損益分岐点に達しておらず、キャッシュを使い切っていない状態で、バランスシート上のキャッシュも限られていました。私たちはより多くの人を雇用し、投資を行い、今も投資を続けています。

TuneCoreには多くの可能性があります。アーティストのために自動化されたソリューションを構築するという音楽市場の部分では、私たちはまだまだ始まったばかりだと思います。

TuneCoreの行っている事業はデジタルミュージック事業全体の売上の中では大きな割合を占めていますが、当社の売上の中では10%にも満たないのです。とはいえ、素晴らしいビジネスであり、これからもどんどん投資を続けていきたいと思います。



ビベンディは、数ヶ月以内にユニバーサルミュージックグループをアムステルダム証券取引所に上場させる予定です。今日のニュースに加えて、UMGの計画は、レコード音楽業界の健全性についてどのようなことを示していると思いますか?

素晴らしいですね。ルシアンが行ったUMGビジネスのポジショニングはすごかったですね。Universal Musicの実行力には非常に感心しています。

しかし、UMGのビジネスは、今後10年間で市場の変化に伴う多くの課題に直面するとも思います。

Belive社は、Universal Musicからアーティストを引き離すような形で上述したUMGの課題になっていくと思います。

2年前に皆がよく私に聞く質問のひとつは、「どうやってアーティストをメジャーレーベルとの契約から引っ張りだすつもりなのか」でした。しかし今では、事例が多くあります。ビルボードのトップ10やトップ20にランクインしたアーティストを、私たちが大手レコード会社から奪っている例です。

ユニバーサルは規模が大きく、スマートな経営陣を持っていますので潰れることはまずありません。音楽業界は勝者総取りのビジネスではなく、異なるビジネス、異なるサービスが必要なのです。

私たちのDNAは、デジタルの世界でより賢く、伝統的なレーベルよりも戦える面もあると思いますし、今後10年間はそれを推し進めていくつもりです。

参照:https://www.musicbusinessworldwide.com/whys-believes-going-public-and-what-its-going-to-spend-600m-on/